※写真はイメージです(写真/Getty Images)

介護サービスの利用者からの要望が、ときにはエスカレートすることがあります。また、「サービスを受ける親の快適な生活のため」という目的を見失って、介護スタッフに不満や怒りをぶつけるケースも。とくに在宅介護ではこのような、利用者から介護スタッフに対する「パワハラ」が起きつつあるといいます。介護アドバイザーの髙口光子さんに現状をうかがいました。

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介護保険制度によって、「措置」から「契約」へ

 介護保険制度が創設されたのは2000年。それ以前の介護サービスは老人福祉法などに基づいて提供されていました。当時は「サービス」ではなく「措置」と呼ばれていました。措置とはつまり行政処分で、「この高齢者は一人で生活ができず、どうやら幸せでなさそうだから、行政の措置として高齢者施設に入れよう」というものです。高齢者本人も家族も、「お国のお世話になって申し訳ない」という意識で、高齢者施設の職員も「してやっている」という気持ちの強い人が多かったと思います。

元気がでる介護研究所代表 高口光子

 介護保険制度が導入されると、「措置から契約へ」というスローガンのもと、サービス利用者と提供者は対等な関係で、被保険者である高齢者が保険料を支払い、自分に必要なサービスを選択して受けることができるようになりました。介護職員も利用者のことを、契約によってサービスを選択した、いわばお客様として接するような教育・指導も始まりました。

いきすぎた客意識・権利意識が生まれた

 制度導入から23年がたって、いまでは多くの利用者が「保険料を支払って契約し、サービスを利用する」という感覚をもっていると思います。しかしその感覚がいきすぎて、「客なんだからもっとやってもらっていいはず」「払ったお金分の、あるいはちょっとおまけがつくくらいのサービスをしてもらって元を取らないと損する」という、誤った客意識・権利意識が一部の人に生まれていることも事実です。

 そこに、社会全体にさまざまなハラスメントへの意識の高まりが起きたことで、介護の現場にもパワハラ(パワーハラスメント)、モラハラ(モラルハラスメント)、カスハラ(カスタマーハラスメント)などの概念がもちこまれるようになりました。

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高口光子

高口光子

高知医療学院卒業。理学療法士として病院勤務ののち、特別養護老人ホームに介護職として勤務。2002年から医療法人財団百葉の会で法人事務局企画教育推進室室長、生活リハビリ推進室室長を務めるとともに、介護アドバイザーとして活動。介護老人保健施設・鶴舞乃城、星のしずくの立ち上げに参加。22年、理想の介護の追求と実現を考える「髙口光子の元気がでる介護研究所」を設立。介護アドバイザー、理学療法士、介護福祉士、介護支援専門員。『介護施設で死ぬということ』『認知症介護びっくり日記』『リーダーのためのケア技術論』『介護の毒(ドク)はコドク(孤独)です。』など著書多数。https://genki-kaigo.net/ (元気がでる介護研究所)

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