「ポイント還元」にはいくつもの「効果」が働く
「ポイント還元」がお得と不合理な判断をしてしまう原因は、消費者の無意識のなかにある「アンカリング効果」の影響です。
「アンカリング効果」とは、下ろした錨(アンカー)から船が遠くへ行けないのと同じく、人の判断も設定値から離れることができない心理的バイアスです。
割引とポイント還元の違いよりも「10%」という数字がアンカーとして記憶に残ります。その結果「10%割引」も「10%ポイント還元」も同じくらい得だと考えるのです。
「ポイント還元」には、ほかにもいくつかの「効果」が働きます。その一つは、「ピークエンド効果」。「ピークエンド効果」とは、最も盛り上がった部分(ピーク)と最後の部分(エンド)が全体の印象を決めるという心理的バイアスです。ピークとエンド以外の記憶は忘れられてしまい、ピークと最後がよければ全て良しという印象が残ります。
「10%割引」は代金と商品を交換して終わりですが、「10%ポイント還元」は代金支払い後に、新たにポイント分をもらいます。それが最後の良い印象として残ります。
また、ポイントは1万円分の権利を保有することになるので「保有効果」もあります。「保有効果」とは、一度手に入れた自分の所有物に対して愛着を感じて、手放したくないと感じる心理です。
買い手ではなく売り手にとって利益が出るしくみ
「ポイント還元」は、顧客との関係を長く続けるしくみだと考えられます。ポイントはアプリのデータやカードなどの形で顧客の手元に残ります。「保有効果」が働き、顧客はこれを大事にします。
さらにポイントをためること自体も楽しみになります。時間が経つほどに満足が拡大することを好む「上昇選好」が働くからです。逆にポイントを使って減らしてしまうのは損失ですから「損失回避」が働きます。
こうしてポイントのために発行元のショップで買い続けることで「顧客の囲い込み」状態になります。これは売り手にとっては便利なしくみです。
(構成 生活・文化編集部 上原千穂)