店内に設置された防犯カメラの映像。犯行の一部始終が録画されており、捜査機関に被害を報告する際に貴重な資料になる場合が多い(写真:関係者提供)

 クレプトマニア──。盗癖、盗症などと呼ばれ、ややもすると犯罪行為の正当化とも受け取られかねない生きづらさを抱えた者たちの姿に迫る。AERA 2023年9月11日号より。

【写真】店側が盗られた商品を把握・管理・処理するために発行するレシート

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 犯罪とわかっていても、盗まずにはいられない──。

 都内の警備会社でいわゆる“万引きGメン”として勤務する30代の男性は、盗癖、盗症のある「クレプトマニア」を「珍しくない」としながら、彼らの抱えた問題にこんな見解を示す。

「窃盗は許容できませんが、加害者たちの話に耳を傾けると、その人なりの背景が見えてきます」

 顔色の悪い初老の女性の万引き犯のケースでは、体調が悪そうなので注目していると、弁当をいくつも盗み始めた。女性は末期がんだと言い、「食べられないのはわかっているけど、盗むと健康だった頃に戻れる気がする」と話していたという。

 Gメンの間では有名な話もある、と男性は話す。ある女性は優秀な万引きGメンで、メディアにも取り上げられるほど活躍していた。しかし大切な人を続けて亡くしたことを機に、仕事を辞めてしまった。その後、女性は万引き犯となり何度も捕まっていたという。

 現場に立つからこそ得た視点もある。

「彼らが心に開いた穴を埋め合わせるように盗んでいると思える場面さえあります。社会が万引きという結果だけに罰を与え、刑事罰によって盗む手を止められたとしても、心の穴は開いたままです。そのまま放置された人は、自傷等に向かう気がしてなりません」(男性)

他人に頼れない性格

 クレプトマニア当事者だった高橋悠さんは、現在、治療が奏効して無事に社会生活を送っている。筆者の前に現れた高橋さんはいかにも誠実で真面目な、自律的な人物に思えた。万引きの常習者、というイメージとの乖離(かいり)を感じる。

「私は昔から白黒はっきりさせないと気が済まない不器用な性格で、他人に頼ることができませんでした。加えて、出生時の性は女性ですが性自認が男女双方に当てはまらないXジェンダーで、幼い頃から窮屈な思いをしていました。両親はそんな私を温かく育ててくれ、褒めてくれたこともあったと思いますが、当時負けん気が強すぎた私は、その言葉を素直に受け入れることができませんでした」

 小学校時代は歯に衣着(きぬ)せぬ優等生的存在であり、同級生から一目置かれていたが、転居先の中学校は規模の小さい“ムラ社会”的な要素が強く、細やかな気遣いが求められた。

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