上原ひろみ(うえはら・ひろみ)/1979年静岡県生まれ。ピアニスト。2003年に世界デビュー。11年に「スタンリー・クラーク・バンド フィーチャリング 上原ひろみ」で第53回グラミー賞「ベスト・コンテンポラリー・ジャズ・アルバム」受賞。最新作は「Sonicwonderland」(ユニバーサルミュージック)(撮影/伊ケ崎 忍)
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 トリオ、ピアノ・クインテット、ネット配信、アニメ映画のサウンドトラック……コロナ禍も世界に音楽を届けたピアニスト、上原ひろみさんの新作はバンドサウンド。AERA 2023年9月11日号より。

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 9月6日にリリースされるピアニスト、上原ひろみさんの「Sonicwonderland」が思い切り楽しい。ジャズあり、ラテンあり、テクノ風あり、ヴォーカル曲あり。エンターテインメント性豊かなアルバムだ。

「新しく組んだバンドみんなで音楽の冒険をした、音の遊園地のような作品になりました」

 コアメンバーは4人。ドラムス、ベース、トランペット。そして今回、上原さんはアコースティックピアノとキーボードを演奏している。

今やれることをやる

「アルバムのアイデアが浮かんだのは2016年です。当時のバンドメンバーの代役で来てくれたベースのアドリアン・フェローの演奏が素晴らしくて、また組みたいと思いました」

 技術だけでなくミュージシャンとしての相性も抜群だった。

「バンドはおたがいの音をしっかり聴くことが大切です。アドリアンと私は音楽の聴こえ方がとても近いから、同じ音楽の風景を描けます。彼はソリストとしての技術も高いし、サポートにまわったときには、バンド全員の演奏を輝かせられます」

 上原さんはアドリアンと演奏するイメージをふくらませたが、当時はソロピアノやコロンビアのハープ奏者とのデュオもひかえていた。2020年には世界的なパンデミックで、思うように活動できない状況にもなる。

 2003年にアメリカのメジャーレーベルでアルバムデビューして以来、上原さんは毎年1年の半分以上、海外をツアーしてきた。しかし、コロナによってミュージシャンとしての活動が大幅に制限された。

 そんな状況で「今やれることをやる」という強い意志でスタートした活動の一つが、インスタグラムの動画機能を活用した1分間の演奏配信「One Minute Portrait」シリーズ。

「ネットを介して、さまざまな国の音楽仲間と共演しました」

 スティーヴ・スミス、サイモン・フィリップス、アヴィシャイ・コーエン、エドマール・カスタネーダなど、一級の音楽家たちが彼女の呼びかけに応じ、スリリングな演奏を世界中の音楽ファンに届けた。

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