このシリーズではアドリアンとも共演。彼をイメージして書いた1分間の「ユートピア」は美しい約7分間のバージョンに進化して「Sonicwonderland」に収録されている。

コロナ禍も世界で演奏

「パンデミックはネガティヴな出来事でしたけれど、外に出られない環境でもやれることはあります。『One Minute Portrait』もその一つ。結果的にですが、新しい曲を生み出せた。今作に収録している『ユートピア』や『ゴー・ゴー』のフックになるフレーズができました」

 2021年には、ヴァイオリン二人、チェロ、ヴィオラとともにピアノ・クインテットのアルバムをレコーディング。コロナ禍で交通手段が限られるなか、空路・陸路を駆使してワールドツアーも行った。そして日本に戻れば、2023年公開のアニメ映画「BLUE GIANT」のサウンドトラックを手掛けた。

「映画はチームワーク。物語があり、尺が決まっていて、登場人物の年齢や性格も意識します。美術にたとえると、制約の多いサントラ制作はデザイナーの作業に近いかもしれません。一方、オリジナルアルバムづくりは自由に描く画家でしょう」

 今回の「Sonicwonderland」で、“デザイナー”から自由な“画家”へ。“本業”に戻った。

「ハッピーでオーガニックな音のドラマー、ふくよかな重低音でダークだけど温かい音のトランペット奏者を見つけて、バンドの音が鳴り始めました」

 目の前に真っ白いキャンバスを広げられたように音の絵筆でオリジナル作を描いた。

「やっと思う存分好きな音楽をやれる状況になりました。自分のなかに蓄えていたエネルギーを爆発させるようにしてつくった新作です」

 11月22日スタートの全国ツアーが楽しみだ。(ライター・神舘和典)

AERA 2023年9月11日号

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