撮影/山本倫子

齊藤:実際、ありましたか?

神津:ありました。ラストシーンです。ここで話せないのが残念ですが。

天井を見ているうちに

齊藤:物語は最初から家の中で始まって、家の中で完結しようと思っていたんですか。

神津:書き始めたらそうなった、という感じです。私は高校生の時は長野でもすごく寒い地域に住んでいたんです。肌が切れるくらい寒かった。その頃からずっと暖かい家に住みたくて、実は、小説に出てくる「まほうの家」と似たような構造の家を実際に建てたんですよ。それで、住み始めてから漠然と怖い話を書いてみたくなって。寝る時に天井を見ているうちに、「こういうところに人がいたら怖いよね」と思ってしまった(笑)。家の中に怖いものがいるんだろうな、お化けかな、人間かなって思いながら書いていったら、賢二たちが勝手に出てきてああなった、という感じです。

齊藤:僕は家が新築というところがすごく新しいと思いました。日本古来の、家にすみ着いた歴史みたいなものに基づいたホラーやサスペンスはありますが、新築はない。確かに真新しさの怖さというのはありますよね。今回、運良く住宅展示場で壊される前提のモデルハウスが見つかったので、そこで撮影させていただいたんですが、誰も生活していない空間の空虚感、その怖さを非常に感じました。

神津:ありがとうございます。私は書く時、俯瞰して見ている感じが多いんです。カメラで追って見て書いているみたいな感覚。一人だけに感情移入して書くということはありません。でも、今回取材でいろいろなご意見をお聞きして思ったのですが、何も意識せずに書いてあの結末になったのですが、「そんなにひどい話だったかな」って(笑)。

齊藤:僕は安息地である家の中を心の目が照らした時に、そこに映っているものは他人が見てはいけない究極のタブーが詰まったパンドラの箱で、実はそれが各家庭にあるのではないかと思っているんです。この作品に出合って、さらに家族を持つということが遠のいた気がします(笑)。悪い意味ではなくて、「これでなければダメ」という型にハマる必要がないのではないかと思いました。先生が生み出したキャラクターたちが織りなす、太い芯のあるドラマは、多くの人がどこか心当たりのある、自分の身のまわりに起こり得る何かにつながっていくのではないかと思います。先生にとっての理想の家とは?

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