アエラ1992年5月26日号「現代の肖像」に掲載された写真。経営者の卵たちが、稲盛さんの話を身を乗り出すようにして聞いていた(撮影・太田順一)
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 京セラとKDDIを立ち上げ、日本航空(JAL)の経営再建にも尽力した稲盛和夫さんが90歳で亡くなって、8月24日で1年になる。

【写真】盛和塾「ブラジル」が生まれるきっかけになった実際の手紙

 日本を代表する企業の経営に注力するかたわら、1983年にはボランティアで中小企業経営者に経営のあり方を教える「盛和塾」を設立した稲盛さん。全世界の塾生は1万人を優に超えた。

 海外に48塾あった盛和塾のうち、初の海外支部となったのは南米の「盛和塾ブラジル」だった。いまは解散したが、その流れを受け継ぐ後継団体(ブラジル経営哲学研究所)で、稲盛哲学を学び続けている。

 日本の大手小売業のブラジル代表で、同研究所の代表世話人を務める大野恵介さん(53)は、日々学んでいるのは稲盛さんが遺した経営の具体的な面はもちろん、それ以上に心(思想)の部分だと話す。

「企業において『数字』だけを追いかけていくと、従業員はいつか疲弊するんです。たとえば利他の心。『国によってビジネスモデルがある』とよく言われますが、利他の心の大切さはどの国でも、誰にでも通用する普遍的なもの。教えの中で、私のベースとなっている一つです」

 盛和塾ブラジルの設立は1993年。アマゾンの木材を扱う貿易会社を創業した中井成夫さん(81)らが立ち上げた。実は設立のきっかけとなったのが、稲盛さんを取り上げたアエラの記事だった。

 92年5月26日号の「現代の肖像」には、京セラ会長と第二電電会長を兼務する当時60歳の稲盛さんが登場している。撮影を担当した写真家の太田順一さん(72)がこう振り返る。

「ざっくばらんで、朗らか。時代の寵児にありがちな尊大さなどみじんもない方でした。取材後に東京に行かれると聞いて、京都駅での撮影を急にお願いしたのですが、快く応じていただきました」

 最も印象深いのが、京都の料亭で行われた盛和塾の光景だ。

「会場に集まった塾生の方々が、畳敷きにあぐらをかき、前のめりになって稲盛さんの言葉に耳を傾けている。緊張の糸が張り詰めたような熱意を感じて、私は『これは動けない』と。1、2カットしか撮れなかったのを覚えています。稲盛さんはただの経営者ではなく、精神性を持っている人だと強く感じました」

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ブラジルにも盛和塾をつくりたい