それからシャワーを浴び、家族でホテルの部屋に戻るとする。エレベーターに乗り、14階を押す。グイーーーンと音を立てて上昇するエレベーター。するとドーーンッ!と、エレベーターが急停止。「わーーっ!!」。5人、一斉に声が出た。エレベーターが止まった瞬間、体感で1メートルくらい落下したような気がした。「え、まじか」「どうして」「やばいな」。声に出さずとも家族の気持ちが狭いエレベーター内で渦巻いているのが見えた。
階数ボタンを押しても反応がない。コールボタンを押しても誰も出ない。「うーん、弱ったな」。人間、本当に弱ると「弱ったな」くらいしか言えないようだ。イルカが見えなくても「弱ったな」とは言わなかったが、今度は本当に弱った。
冷房も切れた。とにかく暑い暑い暑い暑い暑い。シャワー浴びたばかりなのに汗がジトっとしてきた。水は………あ、さっき貰ったイルカのエコバッグの中にペットボトルが3本入っている!! もしもの時にはこれで少しは生きながらえるだろうか……。それにしてもこんなことって本当にあるんだな。エレベーターに閉じ込められたのは初めてだ。このまま我々家族はどうなるんだろう。
……どれくらい時が経ったろう。扉のむこうからなにやら言葉が聞こえた。「ウェイト! ウェイト!」。ギギギーと音がして10センチくらい扉が開く。風が吹き込む。涼しい。開いた。向こうには4、5人の従業員。4階と5階の間で止まったようで、隙間を潜るようにフロアに降り立つ。どうやら閉じ込められた時間は20分くらいだったようだが、もっと長く感じた。