“失われた30年”という言葉に象徴されるように、私たちを取り巻く社会環境および労働環境はこの数十年で大きく変容した。それは「恋愛」の主役とも言える若者たちにおいても同じである。人が出会い、そこに「恋愛」が生まれ、「結婚」へと進み、「子ども」をもうけ、「家族」として育てていく――そんな未来がなかなかリアルに思い描けず、感情移入もしづらくなってきた。そんななか、ドラマ作りにおいても従来の「結婚」をメインとしたストーリー展開を踏襲するのではなく、「契約」としての結婚にスポットを当てていくことはごく自然だと言えるだろう。
また、テレビドラマはSNSが誕生するはるか前から視聴者の「共感」あってこそのコンテンツだった。私たちは少しでも現実の自分と重なるセリフや役どころ、シチュエーション、ストーリーにハマり、その行く末がどうなるのかを想像し、最終回に向け盛り上がっていく。「家族」が核家族化したことで、いわゆる典型的な「ホームドラマ」や、それに付随するシチュエーションがほぼ消滅したように、大きな柱としての「結婚」が共感を得にくい以上、「結婚ドラマ」もそのカタチを変えざるを得なくなったのだ。
近年、契約結婚ドラマが目立つように感じるのは、そういったドラマが増えたことはもちろんだが、なにより「結婚」というものに対する私たち視聴者の意識が確実に変化したことが大きい。もはやドラマにおいても結婚はゴールでもなくステータスでもない。今後もカタチにこだわらない「新しい結婚」を描く作品はさらなる広がりを見せ、増えていくのではないだろうか。
(中村裕一)