腸内など特定の場所に生息する微生物の集団と、そのゲノム情報を指す言葉である「マイクロバイオーム」。口の中にもマイクロバイオームが形成されており、歯周病とも関連があることがわかってきています。どのようなことなのか、歯周病専門医の若林健史歯科医師に聞いてみました。

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 微生物とは目に見えない小さい生物の総称です。人間のからだは、腸内や口の中だけでなく、皮膚や鼻、耳の中などすべての場所が微生物のすみかとなっています。微生物の代表は細菌やカビ(真菌)、バクテリオファージ(細菌にのみ感染するウイルス)などで、その数は細胞の数の10倍以上、容積にして2リットルともいわれています。これらの集合体をマイクロバイオームといいます。

 マイクロバイオームが注目されることになったきっかけは、2000年代後半に、「次世代シーケンサー」と呼ばれる遺伝子解析装置が登場したことです。これにより細菌だけでなく、微生物の集団全体の遺伝子を一度にまとめて測定することができるようになりました。

 その後、研究は急速に進み、マイクロバイオームは臓器ごとに特性があることや、人種による差、個人差があることもわかってきました。

※写真はイメージです(写真/Getty Images)

 また、からだを守る微生物とともに、病気を引き起こす微生物がいることもわかってきています。健康な人の便に含まれている腸内細菌を、クローン病など難治性の腸の病気の患者さんに投与する「糞便移植」は、マイクロバイオームを利用した治療として注目されています。

 口の中については、2021年に東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)の研究により、歯周病に関する新たな知見が得られました。45~69歳で20本以上の歯を有する1289人(男性519人、女性770人)を対象に、唾液や歯垢(プラーク)のマイクロバイオームを解析しました。

 その結果、日本人のマイクロバイオームの特徴が明らかになったことのほか、口の中の微生物の種類が多いことと、歯周病の重症度に相関関係があることが報告されたのです。

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若林健史

若林健史

若林健史(わかばやし・けんじ)。歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演。AERAdot.の連載をまとめた著書『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか?聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中。

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