オットー(トム・ハンクス)は町内の嫌われ者。近所をパトロールしては、ゴミ出しや駐車に文句を言っている。孤独な彼は自ら人生を終わらせる決意をするが、向かいに騒がしい一家が引っ越してきて──。連載「シネマ×SDGs」の45回目は、スウェーデンのベストセラー小説&本国で映画化された「幸せなひとりぼっち」が原作である「オットーという男」のマーク・フォースター監督に話を聞いた。
* * *
原作小説を読み、スウェーデン版の映画にも魅了されました。人間の本質に迫っていると感じたのです。トム・ハンクスと彼の妻でプロデューサーのリタ・ウィルソンも映画化に興味を持っていると知り、幸せな企画が実現しました。
いま我々の住む世界では分断がどんどん進んでしまっています。しかし本作は違う背景を持つ人々が一つになり、そのなかで孤独な主人公が生きる意味を見つけていく物語です。いまの世の中にとても大事なメッセージを投げかけていると思います。オットーはシェークスピアのキャラクターのようです。どこの国も誰の人生にも彼のような人物がいます。私の家族にも、です。ですからアメリカに舞台を移しても違和感はないと確信がありました。なによりオットーをトム・ハンクスが演じてくれたことで私の仕事は楽になりました。彼はハリウッドでも最も愛すべき人物ですから。逆に「彼がちゃんと嫌われ者に見えているか?」を確認する必要はありましたけど。
私はとても楽観的な人間なんです。タイタニックが沈むときも「大丈夫だよ!」と言ってしまうタイプです(笑)。自分が綴る作品や惹かれるキャラクターにもそうした面があります。実際に世界は分断されているし、人種も文化も多種多様です。でも究極的に人間はみんな同じ心を持っていると私は信じています。人は一人で生きているのではなくつながることが大切です。そしてどんな困難もトンネルを抜ければ光があるのです。
コロナ禍の影響でオットーのように孤立している人は少なくないはずです。オットーと隣人マリソルとの関係は食べ物で始まります。これはコミュニケーションに有効な手段でおすすめです。本作をきっかけに近所の方と会話をしてもらったりしたらうれしいですね。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2023年3月27日号