大学では授業内で発言をしないと出席点がつかず、良い成績にはつながらないのですが、そもそも何の話をしているのかがちゃんと聞き取れない。だから、ハーバード1年目のライティングの授業で先生が助け舟を出してくださったのは本当にありがたかったです。日本から来た学生が授業での発言や議論に慣れていないことを先生が理解していて、「授業のここで当てるから答えを用意しておいて」「次はこちらからは当てないけど、ここで手を挙げたら当てるから」といった具合に、段階的に議論の中に入っていけるようなステップを用意してくれたんです。学ぶために来ているので、自分が環境に合わせるのが当然ですが、先生のアシストがなかったらかなり厳しかったんじゃないかなと思いますね。最初は特にコミュニケーションに不慣れで臨機応変には対応できないので、自分が話すことを授業の前にしっかりつくっていくようにし、だんだん慣れていきました。発言するための準備が相当大事だと思います。
Q. 自分の言いたいことや聞いてほしいことを伝える際、無意識に強い言い方になってしまいます。アメリカでさまざまな議論の場を経験してきた廣津留さんは、自分の主張を通したいときはどのように伝えますか?
A. これは言語の違いもありますよね。日本語は語尾や言い方でニュアンスや印象が大きく変わってくるので、ちょっとしたことで「攻撃された」と思われてしまうこともあれば、同じことを言っても語尾が柔和であれば優しく聞こえるということもあります。英語は基本的な文法構成は変わらないし、言い方のバリエーションも少ないので、良い意味でワンパターン。語気を強めたりしない限りは、攻撃的にとらえられることが少ないです。
英語での議論は、ひたすらロジカルに根拠を示すことを大事にしています。感情的に訴えかけるのは意味がない。相手を納得させないといけないので、どういった理由付けが相手にいちばん響くのかを考えます。ヒートアップすることはあっても、あくまで議論をよりよくするためで、それで険悪になったりすることはあまりないんです。これは日常のコミュニケーションも同じです。
また、声の大きさやトーン、目線、ジェスチャーも大事。アメリカでは大人っぽく見せたほうが信用されやすいので、伝えたいことは意識して低めの落ち着いた声で話すというのは、海外在住経験のある友人たちとの間でもよく話題に上がります。ビジネスの交渉でも、慣れている人はたとえ心の中では焦っていても、相手の目を見て落ち着いて話し、焦りを見せません。逆に、自分の主張を通したいときに、声が大きくなったり肩が上がってきたりして「あ、この人感情的になっているな」とちょっとでも思われたら足をすくわれてしまう。そういう議論の場を経験してきたので、私もテレビの番組で発言するときは、無意識のうちに若干低めの声で話しているかもしれないですね。
構成/岩本恵美 衣装協力/BEAMS