周りの親族から羽交締めにされ、無理やりステージから引きずり下ろされるスコットランドのオジサン。「やめろって! なんすんだよぅ! オラぁお祝いに来てこんな目にあわすなんてヒデェぞ! ダイ◯ナさんがいたらこんなことさせねえべ! ったくまぁ! よせって! やめろって!……オラまだ帰らねえよ! もう一軒いこ! もう一軒! オラのコレ(小指)にやらせてるスナックがあるからぁ! みんなで、ほら、あー、誰だ、タクシー呼んだの!? 乗らねえよ! おい、いてててて! 押し込むなよ! あ!! 引き出物、忘れた! 持って帰らねえと母ちゃんに怒られっから! あー、分かった分かった! もう帰っからぁ!」
ウィリアム皇太子が引き出物の入った紙袋をタクシーに放り込む。「行き先は?」「ロンドンのアパ! アパ行って!」とオジサンが叫び、タクシーは走り去っていった。どうやら私と同じ宿のようだ。静まりかえった和室に戻ったウィリアムが「お前もなんか言ったらどうなんだ?」と言うとヘンリーは「へへ」と鼻先で笑い氷結に手を伸ばす。「大変お騒がせしました。もう、お開きです。みなさん。今日は父のためにありがとうございました」。ウィリアムが頭を下げる。チャールズ国王とカミラさんは先に帰ったようだ。ヘンリーは氷結を2本カバンに忍ばせた。国王は酔っ払って王冠を忘れていったのか、親戚の子供たちがかわりばんこに被ってると「コラッ!」とどこかのオバサンに叱られていた。
私もタクシーを呼んでもらいアパホテルに着くと、フロントでさっきのオジサンが揉めている。「だからぁ! ロンドンのアパって、ここだべ!?」「いや、こちらはロンドン橋前店でして……駅前に北口店と南口店、ロンドン塔店、大聖堂前店……ロンドンだけであと8店舗ありまして……」「すらねぇよ! そんなこと! ほら! これやっから姉ちゃん! これツァールズの引き出物!」。なんとか泊めてもらおうとオジサンは紙袋から引き出物を取り出した。戴冠式の引き出物は「寿 三代目」と書かれたデッカい鯛のカタチのカマボコだった。