森重昭、森佳代子/副島英樹編『原爆の悲劇に国境はない 被爆者・森重昭 調査と慰霊の半生』(朝日新聞出版)
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 僕がやっていることはね、金儲けじゃないんですよ。真実を遺族に知らせたいからやってきたんです。「それを否定されてたまるか。絶対にそうじゃないということを証明してみせるぞ」と思いました。そのために、僕は米兵遺族にあたった。遺族は自分もその慰霊祭に出席していたと言っていた。レーガン大統領のスピーチを聞いていたんです。僕が裏を取った瞬間ですよ。僕は涙が出た。そういうことを、ずっと続けてきたんです。

掘り起こされる秘話

 歩いた先々でいろいろ教えてくれたことが、今ごろになって役に立つようになりました。例えばある人は、「あそこの誰々さんはどうなったか」と僕に聞くんですよ。だから、僕が聞いている範囲で、ここに誰々が逃げて来て、とお答えします。ある人は、「うちの子どもは死んだけれども、せめて死ぬ前にトマトを食べさせてやりたかった」と言ったんです。だから、「いやいや、食べているよ」。どうしてかと言えば、「あんたの子どもさんが逃げてくるとき誰々と一緒に逃げて来たでしょ。その誰々さんは、自分のところであなたの息子にもトマトを食べさせている、ということを聞いているよ」と言ったら、「ああそうだったのか」と。せめてトマトぐらい食べさせてやりたかったのにと思ってきた親御さんは、気が楽になりました。トマトひとつのことで、どれだけみんな喜んだかということですよ。

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