新書界でも「イスラーム国」商売が盛んである。それぐらい「イスラーム国」というものが日本人にとってワケがわからず、何を考えてる集団なのかハッキリさせてくれ!というニーズがあるのだろう。数ある中で選ぶとすれば、やはり中田考さんが書いた本がいちばん面白そうだ。ある種、渦中の人であり、テレビで拝見すると、あのヒゲなどで隠されているが、中田さんはハンサムで素晴らしく声がいい。
 イスラーム教の考え方、行動様式について書かれている。イスラーム原理主義というと「ジハード」で自爆テロ、というイメージがあるが、イスラーム教では自殺は許されておらず、自爆テロも許されない、しかし「ジハードは天国への最短ルート」というのがイスラームの正式な教義であり、「ムスリムであれば誰でも、同じ死ぬのであればジハードで死にたいと思うのが本当なのです」……というあたりから、「え、イスラーム教ってどういう考え?」と思いませんか。
 そのへんを、イスラーム法学者の中田さんが平易な言葉で丁寧に説明してある。しかし、読みすすめると、日本人がイメージする宗教のありようとずいぶん違う。思ったよりもずいぶんゆるいし、同時に異様な厳しさもある。日本人だって宗教観はゆるいけれど、ゆるさの場所がイスラーム教とはぜんぜん違っているので、その違いに戸惑い、そこが面白いと思える。
 そして「イスラーム国」である。どういう道筋でこの集団が一定の力を持つに至ったか、が終章で述べられるのだが、日本人には理解しづらいイスラーム教の考え方の中から生み出された、預言者の代理人である「カリフ」という制度と歴史から見ていかないと、到底わからない。イスラーム教のそのわからなさが一種の魅力にも見えてしまう。「イスラーム国」はカリフ制を復活させリーダーがカリフを名乗っているのだが、問題はその正統性だと中田さんは書いている。

週刊朝日 2015年4月10日号