エッセイスト 小島慶子
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 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 1980年代初めから観測されるようになったオゾンホール。有害な紫外線から私たちを守る上空のオゾン層に穴が開く現象です。87年にフロンガスなどのオゾン層破壊物質の生産や消費を規制する国際条約「モントリオール議定書」が採択され、世界各国が共に対策に尽力。その甲斐あって、北極上空やその他の地域では2040年代に、南極上空では2066年ごろまでにはオゾン層の状態が1980年の水準に戻ると予測されています。この取り組みは結果として気温上昇を幾分か遅らせる成果もあげているのだとか。人類は、やればできるのです。でも果たして温暖化阻止の取り組みは間に合うのだろうかと、もどかしい。そうしているうちに夏は年々暑くなり、山火事や水害は激しくなり、冬には豪雪被害、そして極地の氷床が溶け、海面が上昇し、海水温の上昇などによって海の生態系が壊れています。もう、遠からずティッピングポイントを超えてしまうのではないかという気がしてきました。それを超えると気候変動の連鎖が止められなくなると言われています。

全国各地で猛暑が報じられている。気候変動対策は急務だ

 過去の歴史が示すように、気候変動は人々に移動を余儀なくさせ、文明の消滅を引き起こします。それまで豊かに暮らせていた場所が、人の住めない荒れ地になるかもしれない。水資源を巡って紛争が起きるかもしれない。すでにそれを前提に行動するべき段階にあるのでしょう。自然は話し合いができない相手。地球温暖化を食い止める努力を全力で続けつつも、もはや不可抗力の変化を想定した備えを進めるほかありません。

 日本はもともと自然災害の多い国です。年々過酷になる気候を生き延びるための技術革新と都市緑化、水資源の確保、明日起きるかもしれない大水害や巨大地震に備えた防災・減災対策が、人の命と暮らしを守るためにいま最も必要な「国防」でしょう。

◎小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。寄付サイト「ひとりじゃないよPJ」呼びかけ人。

※AERA 2023年8月7日号