落語家・春風亭一之輔さんが連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今回のお題は「花火」。
先日、私の住んでいる町内で盆踊り大会があった。コロナ禍に入ってから実に4年ぶり。回覧板のプリントを見ると「終わり時間 20時30分」とある。いつも21時過ぎまでやってたはずだけど。聞けば、近所の人から「夜遅くまでうるさい!」と苦情が出たらしく、実行委員会が「じゃ20時30分までにします」と決めたそうだ。その折衝ラインはなんなのか? 20時30分までなら我慢できるのなら、あと30分くらいなんとかならんものか、とも思うけど。
今は小学校の運動会の音にも苦情を言う住民もいるという。昔、私の故郷では運動会の開催決定を早朝に花火を上げて知らせていたっけ。お天気が微妙な時、花火を上げるのだ。ドーンっと鳴ったら運動会アリ。朝6時に花火。しかも綺麗でもなんでもない、ただの煙とただのドーン。ずーっとやっていたってことはそんなに苦情が出なかったのか、それとも「こっちは昔からやってんだ! 文句があるなら引っ越しやがれ!」と校長先生が啖呵を切ったのか。とにかく昭和という時代は鷹揚だった。
7月29日は隅田川花火大会。こちらも4年ぶりだそうだ。花火職人さんも花火好きも近隣の商売をしてる方も、この日は待ちに待った特別な日だろう。ソワソワするご心中お察し致しますが、落語家の私からするといやもう、ほんとこの日は浅草には近寄りたくない。地獄のような一日だ。
浅草演芸ホールの出番がある場合、花火だろうがなんだろうが行かねばならないが……夕方以降の浅草は人、人、人。老若男女が街に溢れて身動きが取れん。みんな花火目当てにウキウキしてるところに、着物の入ったキャリーケースを引きずりながら寄席へ急ぐのはなかなかにしんどい。浴衣カップルがキャアキャア言いながら戯れながら歩いている。たいがい男子はメチャクチャな着方で「ちょっとお前、一回脱いでみろ! おじさんが着付けし直してやるから!」と言いたくなってくる。言わないけど。ツンツルテンの丈で帯が胸高になっちゃって襟元から白いシャツがのぞいちゃってるバカにしか見えない『バカ浴衣』男子を勘定しながら寄席へ向かうのは意外と楽しいのだが、暑さと相まって田原町駅から寄席まで歩くだけでクラクラする。