映画「裸足になって」の舞台は、1991年から10年続いた内戦の傷痕がいまだ残る現代のアルジェリア。バレエダンサーのフーリア(リナ・クードリ)はあることから男に襲われ大けがを負ってしまう。ショックと絶望から踊りと声を失った彼女が出会ったのは、それぞれに深い傷を負ったろうの女性たちだった──。ムニア・メドゥール監督に見どころを聞いた。
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アルジェリアでは2019年に「アラブの春」に続く革命が起こりました。政治を変えようとストリートに溢れた人々を映す映像のなかで、私はある若い女性に惹きつけられました。彼女はアルジェリアの国旗を背にバレエのポワント(つま先立ち)のポーズでまっすぐに立っていました。実にアイコニックでした。その姿を見て、傷ついた心や体を回復させていく女性をダンサーの姿を通して描けるのでは、と思いました。
本作はフィクションですが、すべて現実を反映しています。いまだ父権制の伝統を重んじるアルジェリア社会では女性が表現をすること自体が有害とされます。ダンスのような体を使った表現はなおさらです。襲われて大けがを負ったフーリアは同じダンサーの母と警察に行きますが、女性警官にあきらかに職業を見下されます。男性警官は「夜、うろついていたんだろう?」とフーリアの罪悪感をそそるような言い方をします。でもこれは大なり小なり世界中で起きていることではないでしょうか。
フーリアの親友ソニアに起こる悲劇もまた現実です。海を渡って不法に出国しようとする人々が、日々命を落としています。かつては内戦による命の危険や経済的な理由からの出国でしたが、いまは文化的に抑圧され、自由を阻害されていると感じる若い世代が自由やより良い生活を求めて国から脱出しようとしているのです。その状況を伝えたいと思いました。
私は何かの役に立つ映画を作りたいのです。私自身も映画によって目覚めた経験があるからです。フーリアは傷ついても果敢に立ち上がり、より強くなっていきます。一人でやるのではありません。同じように傷ついた女性たちがそれを助ける。そんな女性たちのパワーを感じてもらえればと思います。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2023年7月31日号