■新会社で新NISA
いったん入ってきた客は出ていかず、逆に長期投資の信奉者になる人が多い。証券会社が顧客に次々に違う投資信託を薦めて手数料を稼ぐ、日本の証券会社が得意だった「回転売買」とは無縁だった。
積み上げたセゾン投信の口座保有者は約15万人、運用資産総額は6千億円超に達した。積み立てのニューマネーと、資産総額の厚みによる値上がり時の収益増で、近年、資産総額の増加に拍車がかかっていた。そんな好循環の中での退任だった。
悔しさは残るというが、中野氏は「次」への自信を深めている。
「16年間、長期投資への理解者がどんどん増えるのが実感できてやりがいがありました。親会社と違って、運用業界でも評価してくれる人が多い。今回、『中野、おかしいぞ』とする声はどこからも聞こえてきませんでした。新会社への挑戦で、もっと大きな成果を出せるのでは、と思えるようになりました」
新NISAの開始に間に合うように、新会社は年内に立ち上げるつもりだ。教訓として、「大株主」を作らないように気を付けるという。長期投資への情熱はますます燃えたぎっている。新著『50歳からの新NISA活用法』でも述べているが、中高年の背中も押したいという。
「『しまった。何もしてこなかった』という中高年に新NISAは大チャンスなんです。皆さん、それなりに預金をお持ちだから、それを積み立て投資に回せばいい。目いっぱい使えば『月30万円』の積み立て投資ができます。5年で生涯投資枠に達し、あとはそれを保有し続ければキャッチアップできてしまいます」
老いも若きも積み立て投資に励もう、が「積み立て王子」のアドバイスなのだ。(編集部・首藤由之)
※AERA 2023年7月31日号