日本株はバブル期以来の高値圏に沸くが、投資対象の「成長」を信じる「長期投資家」には日々の値動きは関係ない
日本株はバブル期以来の高値圏に沸くが、投資対象の「成長」を信じる「長期投資家」には日々の値動きは関係ない
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 長期投資の伝道師のトップ交代劇はあまりに唐突で、金融界に衝撃が走った。ただ本人はすでに「次」を見据えていた。新会社で理想の運用をめざすという。AERA 2023年7月31日号より紹介する。

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「新会社を立ち上げて、より高度な運用会社を作り直したい。最大限『顧客本位』の高みを追求する運用会社を、です」

 こう話すのは、独立系投信会社の草分けであるセゾン投信の元CEO兼会長、中野晴啓氏(59)だ。4月に親会社のクレディセゾンの首脳から退任を迫られ、6月28日、正式に決議された。

「原因は報道された通り、『路線の食い違い』です」

 親会社はカード会員を中心にした規模拡大を迫ったようだ。販売方法の変更が必要との考えから、首脳は中野氏に「あんたのやり方ではダメなんだ」という趣旨の発言もしたとされる。

■全国行脚で効用を説く

 規模を目標にすることや販売方法の変更は中野氏が進めてきた路線の否定にほかならない。だからこそ、中野氏は今こう誓うのだ。

「これから理想的な会社づくりに取り組みます」

 中野氏は、「長期投資」の伝道師として知られる。将来的に成長が確実と思われる投資対象を見つけ、いったん投資すればずっと持ち続ける。例えば、この先数十年は人口増が続くため「世界経済」は順調に成長するとの見立てに基づき、その状況に合わせて値動きする投資信託を買って持ち続けるのである。

 セゾン投信を2006年に創業した当初から、中野氏は「長期・積み立て・国際分散」を推奨してきた。同じ路線は「つみたてNISA」を18年に創設して以来、金融庁も推進する。とりわけ時間分散を意味する「積み立て」を強調したところに特徴があるとされ、ついたニックネームが「積み立て王子」。積み立て投資は今、20代、30代でブームで、中野氏はその立役者ともいえる存在だ。

 販売方法も独特で、セゾン投信が直接、顧客に投資信託を販売する「直販」態勢をとった。週末などに中野氏らが全国各地を行脚してセミナーを開き、長期投資の効用を説いた。

「ただし、セミナーでは『買ってください』とは一言も言いませんでした。『積み立て投資がなぜ重要なのか』や『長期保有すると成果が出る理由』を話すことに徹します。納得したお客さんに長期投資の世界に入ってきてほしいからです」(中野氏)

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