このように総裁選では国会議員票がものをいうなら、最大派閥である清和会はもっとも力を持っている。2021年の総裁選で高市氏が健闘したのも、高市氏を支援した安倍晋三元首相が岸田首相の支持で固まっていた清和会を中心に、国会議員票を切り崩していったためである。
そういう意味では清和会所属の西村氏が優位だ。現在の清和会はさらにメンバーを増やし、100人の現職議員を抱えるまでに至っている(衆院議長就任のために会派離脱中の細田博之氏を除く)。
だが清和会は会長だった安倍元首相が昨年7月、参院選の最中に銃撃されて死亡。会長代理を務める塩谷立氏と下村博文氏を中心に、西村氏ら「5人衆」を含めた7人の世話人会による集団指導体制で当面は運営されることになった。当初は2023年7月8日の安倍元首相の命日を過ぎれば、会長人事も含めて新体制が発足するはずだったが、塩谷氏や下村氏が「新会長を選出すべきだ」と主張するのに対し、「5人衆」のひとりである世耕弘成参院幹事長がこれに反対。いまだ指導体制すら決まっていない。
その背景には、2024年の総裁選をにらんだそれぞれの思惑がある。たとえば2021年の総裁選で立候補を検討したが不出馬となった下村氏は、次期総裁選にも意欲を見せ、派閥内の議員を集めて食事会を開いている。
一方で「5人衆」の中にも突出した人材がいない。派閥の陰の実力者である森喜朗元首相は、清和会会長に萩生田光一政調会長、総裁候補に西村氏を充てるという“分業案”を提唱した。
言い換えれば、誰も100人もの巨大派閥をまとめきれないということだ。7月13、20日と2週続けて清和会の総会が流れている。「これではみんなバラバラだ」と、ある議員はため息をつく。この現状が進めば、派閥が分裂する気配すら出てくるかもしれない。
そうなれば基盤を失う西村氏は、有力な総裁候補から滑り落ちる可能性があるが、それが茂木氏や河野氏に有利となる保証もない。たとえば平成研会長の茂木氏ではあるが、「(小渕)優子を総理に」との青木氏の遺言を岸田首相が守って次の党人事か内閣改造で小渕氏を抜擢すれば、その地位は徐々に脅かされることになるかもしれない。