「千葉大学のプログラムで一番ありがたかったのは、学問に裏づけされた実習がたくさんできたことです。後継者を探している農家が本当に多いことも知りました。今の職場は就労移行支援のための福祉事業所で、農業を通じて一人ひとりの力を伸ばすことが目的です。力仕事や手作業だけでなく、収穫量のデータを集めたり、販売のためのポップ広告を作ったりする人もいます。私自身は障がい者だけでなく老人福祉にもつなげられればと思っています」(濵崎さん)

 濵崎さんが勤める「エシカルベジタブルス八王子」では、プログラムの履修証明書を事業所の玄関内に貼り出している。農福連携について大学で学んだことを知ってもらうことができる。このように、学んだ成果をさまざまな形で運営に役立てている。

 NPO法人エコグリーン協会の理事を務める宇野理佳さんも、この履修証明プログラムがきっかけで新たな職場を見つけた一人だ。福祉のあり方について、高次脳機能障害者となった夫の介助をしながら疑問を感じていたという。

「作業所に行くと缶拾いぐらいしかすることがなくて、もっとできる仕事があるはずだと感じていました。福祉について勉強したいと思って2021年に聖徳大学心理・福祉学部社会福祉学科の3年次に編入し、そこで農福連携という言葉を初めて聞きました」(宇野さん)

 農福連携を学ぶプログラムがあることを知って受講するうちに、宇野さんは、農業なら与えられた仕事ではなく人間として尊厳を保ちながら働ける、と考えるようになった。入門コース(現・導入コース)の最後の日には、受講生のプレゼンテーションと修了式が行われる。このとき宇野さんは農業と福祉と手仕事についての自らの考えを発表した。

 それを聞いたプログラムの講師に声をかけられて応用コースに進み、修了すると2022年11月にこの講師が理事長を務める前述のNPO法人の理事に就任した。

 職場は授業を受けた環境健康フィールド科学センターの敷地内にある水耕栽培の植物工場だ。ここで障がい者の就労への橋渡しをしながら、特別支援学級と通常学級の児童・生徒がともに植物に触れるインクルーシブな場を提供している。そのほかにも、障害のある学齢期児童のための放課後デイサービスにも働きの場を持ち、現場視点から農福連携の可能性を見いだそうとしている。

暮らしとモノ班 for promotion
大谷翔平選手の好感度の高さに企業もメロメロ!どんな企業と契約している?
次のページ
いろんな経験を持った人の声を聞くことができる