元朝日新聞記者 稲垣えみ子
元朝日新聞記者 稲垣えみ子

 元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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 ここ数年、夏になると胃の調子が悪い。今年も5月から兆候があり、なんだかなーと考えていてハッとした。これってもしや、ピロリ菌? というのは会社員時代にも胃の不調に悩まされ、診療所で検査したらばっちりピロリ菌がいた。で、どうも今の感じはあの時の不調と似ているのだ。


 無論、当時は薬を真面目に飲み、除菌に成功したはずだった。でも思い返せば、今の不調が始まる前に台湾に長期滞在して水道水を普通に飲んでいたよな。もしやあれで再感染……と邪推し、近所の病院で胃カメラを飲み、一応ピロリ菌検査もしましょうかと調べてもらったら。


 ジャーン。やっぱりいたよピロリ菌。でも医師の説明によれば、大人が感染することはほぼないので、前に生き残っていたやつを見落としたのかもとのことである。


ピロリ菌除去の薬。たくさんあるので飲み忘れがないようとってもわかりやすくなってた(写真:本人提供)
ピロリ菌除去の薬。たくさんあるので飲み忘れがないようとってもわかりやすくなってた(写真:本人提供)

 再び7日間にわたる除菌生活。でも一度除菌に失敗してるってことはまた同じことを繰り返すんじゃ? と心配になりネットで調べていたら、恐怖の事実が判明した。


 菌は抗菌薬で殺そうとすると、それでも生き残るしぶとい菌が生まれてくる。これを「耐性菌」といい、政府広報によれば1980年代から世界中で耐性菌が増え、今後新たな感染症が流行すると「使える薬がない」ことが深刻に懸念されているらしい。で、なぜ耐性菌が増えているかといえば、抗菌薬を広く使うほど耐性菌も増えるわけで、無論、この耐性菌をも殺す新しい薬を人類は開発せんと頑張るわけだがなかなか追いつかない。人類は菌との闘いに既に負けつつあるのだ。


 で、ピロリ菌も抗菌薬が広く使われるほど耐性菌が出現しているわけでして、私、大丈夫なのか? ちゃんと除菌できるのか? 何しろピロリ菌は胃がんの原因の9割を占めるらしい。っていうか私はともかく人類が心配だ。科学が全てを解決すると思っていたら、気候変動といい感染症流行といいむしろ新たな問題を引き起こしている。やりたい放題だった人類はもう詰んでるのかも。で、私も詰んだのか?


◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

AERA 2023年7月24日号

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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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