政府が6月16日に閣議決定した「骨太の方針2023」。「労働市場改革」をめぐる記述の中で、盛り込まれたのが「退職所得課税制度」の見直しだ。現行制度では、長く務めるほど「退職所得控除額」(以下、控除額)が大きくなる。控除額は、勤続20年以下なら1年ごとに40万円だが、勤続20年を超えると70万円に跳ね上がる。将来、こうした優遇がどのように変わることが予想されるのか。AERA 2023年7月24日号の記事を紹介する。
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具体的にどう変わるのか。それはまったくの未定だが、政府文書の書きぶりからすると、次のように考える関係者が多い。
「長く勤めても有利にならないように、『70万円』の優遇をなくすのが中心になると思います」(年金数理人・中村博氏)
仮に、低い方に合わせて「一律40万円」になるとすると、どうか。
図の勤続年数30年の例で見ると、勤続年数20年超の部分が1年につき30万円の減額になるので、控除額が300万円減る。課税はその半分だから、新たに課税所得150万円分に所得税がかかってくる。
ちなみに大卒会社員が勤続38年、60歳で退職金をもらう場合、どのぐらいの負担増になるか試算してみた(表)。ご覧の通り、退職金額が高くなるほど影響は大きくなる。現行制度からの増税額もさることながら、「所得税+住民税」の税金総額も注目してほしい。退職金4千万円になると、納税額は380万円超にもなるのだ。
専門家の間ではさまざまなプランが語られている。一つの視点は、増税一辺倒ではなく何らかの形で「増減税セット」にして国民に提示してくるのでは、とする見方だ。
退職金制度に詳しいクミタテル社の向井洋平社長が、
「例えば『一律50万円』だとどうですか。勤続30年未満は今より控除額が大きくなって納税者が有利になり、逆に30年を超えると控除額が小さくなって不利になります。増税一本槍よりバランスがとれている感じがします」
と言えば、先の年金数理人の中村氏は、
「来年2024年は公的年金の5年に一度の健康診断、財政検証が行われる年です。例えば、財政検証がらみでiDeCoの拠出限度額の引き上げを行えば、『退職金は増税だが、iDeCoで資産形成できる金額を増やした』と政府は主張できます」
と話す。確かに「アメ」と「ムチ」の両方ある方が、「痛み分け」を演出しやすい。