とうとう政府が目をつけた。“終身雇用”が色濃く投影された「退職所得税制」。中高年の「既得権益」はまた一つ、消えていくのか──。 AERA 2023年7月24日号の記事を紹介する。
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「とうとう退職金に『Jアラート』が鳴りました」
こう話すのは、年金や退職金に詳しい年金数理人の中村博氏だ。政府が退職金をめぐる税制の改正に乗りだすと表明したことを捉えて、それを弾道ミサイルの飛来などを知らせる全国瞬時警報システムに例えた。
「Jアラートは空振りのことが多いが、退職金への警報はそうはならないでしょう」
発端は6月16日に政府が閣議決定した、政権の重要課題などの方向性を示す「骨太の方針2023」だった。「労働市場改革」をめぐる記述の中で、「退職所得課税制度の見直しを行う」とはっきりと明記されたのだ。
「『骨太~』に盛り込まれる施策は、その前に省庁の各種会議などで方向性が出されているものです。この場合のそれは、岸田首相の肝いりで進められている『新しい資本主義実現会議』でした」(中村氏)
5月に出された同会議の文書「三位一体の労働市場改革の指針」では、具体的に次のような趣旨のことが書かれていた。
「退職所得課税については、勤続20年を境に勤続1年あたりの控除額が増額される。これが自らの選択による労働移動の円滑化を阻害しているとの指摘があり、本税制の見直しを行う」
「骨太~」と同会議の文書を掛け合わせると、改革の方向性が見て取れる。すなわち、「退職所得税制は長い勤続年数での控除額優遇を抑制する方向で改革が行われる」である。
■長く勤めると有利に
長らく終身雇用制度が続き、今もそれが色濃く残っているため、退職金は会社員ら被雇用者にとって最後にもらえる「華」ともいえる存在だ。大企業の社員だと2千万円を超えることが珍しくなく、公務員、中でも霞が関のキャリア官僚となるとさらにその上を行く。
年金でもらうことを選択できる制度もあるが、定年時に一度に一時金でもらう人が多いとされる。退職金は賃金の後払いの側面があり、定年以後の生活を支える原資でもあることなどを根拠に、税制面において税金がかかりにくい制度構築がなされているからだ。
どれぐらい有利なのか。退職一時金にかかる税金の計算方法を示す図を見てほしい。