まず大きいのが「退職所得控除額」(以下、控除額)を退職金から控除できることだ。先の政府会議の文書の通り、勤続年数によって1年ごとの控除額が決まっていて、勤続20年以下は1年で「40万円」なのが20年を超すと1年で「70万円」に跳ね上がる。まさに長く勤めたほうが有利。大卒で同じ会社に勤め続けると、60歳定年なら2千万円を超える。
■「みなし所得」も対象に
退職金の金額が控除額より低ければ税金は「ゼロ」。金額が控除額を上回っても課税されるのはその半分だ。このため図の勤続30年の例では、退職金2500万円をもらっても課税されるのは500万円分だけになる。
さらに、退職金は、その年のほかの所得と合算して課税される「総合課税」ではなく、退職金だけで計算する「分離課税」方式が取られている。普通なら翌年の徴収になる住民税も退職時に一括して徴収され、大抵の場合、確定申告する必要がない。
まさに二重三重の優遇で、近年、批判の声が高まっていたが、今回そこにメスが入りそうなのである。
純粋な退職金だけでなく、退職絡みなどで一時金でもらうことができ、その場合は「みなし退職所得」とされるものは、その全部がこの税制の対象になるから影響は大きそうだ。確定拠出年金である企業型DCやiDeCo、大企業に多い確定給付企業年金(DB)、小企業の社長や役員のための「小規模企業共済」などである。
「これからは、自分で運用する企業型DCやiDeCoで運用がうまくいった人が高額のみなし退職所得を手にする事例が増えるでしょうね。私の知人で、企業型DCで拠出金980万円が約2千万円になっている人がいますが、そういう人も税制が変わると負担が増える可能性があります」(先の中村氏)
(編集部・首藤由之)
※AERA 2023年7月24日号より抜粋