九龍ジョーという奇妙な名前が気になるようになったのはいつからだろうか。「Quick Japan」「KAMINOGE」「BUBKA」。いわゆるサブカル(好きな言葉じゃないが)にカテゴライズされる雑誌の中で、何者かまだ知られていないけれど、何かを動かす力を持とうとしている人たちを、濃い鉛筆を原稿用紙に押しつけるような文章で吐き出している男だ。
 本書は38歳のライター/編集者が2005年から各誌、ブログで書いた文章をまとめた一冊である。松江哲明、前野健太、大森靖子、プロレス、アダルトビデオ、国家論、女装、立川談志……、ページをめくるたびに、今はもうない九龍城のような魔窟に入り込んだような目眩に似た感覚にとらわれる。入り口も出口もないポップカルチャーの迷路だが、著者は不親切な道案内を提示してくれている。そんな道しるべを探しながら魔窟のドアをひとつひとつ開けていくスリルと快感が本書には満ちあふれている。次作は今の九龍ジョーが見ている“未来”を、彼自身が語る言葉で読んでみたい。

週刊朝日 2015年3月13日号