中でも軽視されがちなのが、「水分補給」だ。富士山のトイレは協力金が必要なうえに曜日や時間帯によっては混雑するため、トイレの利用を減らそうと水分を控えてしまう人もいる。齋藤医師は言う。
「高い山の上で活動すると、呼吸の回数が増えて、肺からの水分のロスも増えます。高山病や脱水を防ぐには、登山中、十分な水分と電解質、栄養の補給が不可欠です。リュックのポケットなど取り出しやすいところに水のペットボトルやゼリー状の飲料を入れておき、こまめに消費した水分とカロリーを補給するようにしましょう」
登山中に失われる推定水分量(ml)は、「5×体重(キログラム)×登山行動時間(時間)」。当日の気温や活動量によって増加するので、この目安よりも多く持参し、「飲みすぎるぐらいのほうがいい」と齋藤医師は言う。
「富士山はほかの高山とは違ってルート上で水などの飲み物を売っています。値段は高いですが、全量を持参すると重いので、上手に利用するといいでしょう。体温調節をするための防寒具や雨具も忘れずに持参してください」
また、高山病予防に酸素スプレー缶を携行する人もいるが、効果はあるのだろうか。齋藤医師は「酸素スプレーに頼るのは現実的ではない」と指摘する。
「2Lの酸素スプレー缶を吸っても、90秒程度で空になってしまいます。大量の缶を持参して高地に滞在する間ずっと吸い続けるなら効果があるかもしれませんが、行程のほんのわずかな時間だけ酸欠状態が改善してもほとんど意味がありません。それよりも口すぼめ呼吸をしながらゆっくり登るほうが、ずっと効果的です」
■低い山で練習し、ペース配分をつかむ
高山の中でも特に富士山は気軽に登れるイメージが強く、登山の経験がない人が高山病になるケースが目立つ。登山をしたことがなければ、高山病を防ぐために重要なペース配分や水分補給のタイミングもわからない。