これまで山田さんは写真学校の非常勤講師や派遣社員、アルバイトをしながら撮影を続けてきた。
「去年の夏までやっていた仕事は大阪・難波のど真ん中にある米屋さん。毎日カメラを持って出かけて、仕事が終わってから撮影した」
休日は梅田を中心とした「キタ」のほか、難波や天王寺など、人が多い場所へ足を運ぶ。
「撮影はルートを定めないというか、定めたらぜんぜんあかんな、と思います。本当はこっち行くつもりやったけど、やっぱりこっちに行ってみようとか。曲がり角で気配みたいなのを感じて、方向がどんどん変わっていく。ノラリクラリと、華やかじゃないところに引かれていく」
「黒が濃くないと無理やなあ」
冒頭で書いたように、山田さんの写真はどれも全体的に暗く、闇のなかから絵が浮かび上がってくるような印象がある。
「それは、くせというか、好みですね。写真学校時代から黒が濃くないとちょっと無理やなあ、という感覚をずっと抱いてきた。暗いほうが心が揺さぶられる感じがあります」
プリントを黒く仕上げるには印画紙の露光時間を長くする。ところが山田さん場合、原版のネガが濃いので、それ透過する光が弱くなり、かなり長い露光時間を必要とする。
「だから、写真を焼くのはめちゃくちゃ大変です。一番感動するプリントは、闇に浮かぶような絵が暗部にうっすらと残っているとき。ああ、奇麗やなあ、と思う。そういう写真に引かれますね」
(アサヒカメラ・米倉昭仁)
【MEMO】山田省吾写真展「影の栞」
入江泰吉記念奈良市写真美術館 7月1日~7月2日