当時、広島県連は、現職だった溝手顕正・元国家公安委員長(故人)の公認を決めていた。広島選出の岸田文雄政調会長(当時)が率いる岸田派(宏池会)の重鎮だ。

 ところが、党本部は2人目の公認候補として案里氏を擁立した。これを主導したのが当時の安倍晋三首相と菅義偉官房長官だった。この決定に県連は猛反発。県連のホームページでも、早々と溝手氏のみを「公認」とし、案里氏の名前は出していなかった。

 佐藤被告の裁判に戻る――。

 佐藤被告によると、河井元法相は、自身が県議時代の1992年にあった参院選の記憶としてこう話したという。

「選挙戦がはじまると、自民党広島県連から活動費として20万円か30万円をちょうだいしました。県議に当選してから初めての国政選挙でした。大型選挙の前には活動費が支給されるのが当然と思うようになりました。しかし、案里は県連からは認められていなかったので活動費は出ませんでした。自分でも同じようにすべきだと、広島県連の代理として陣中見舞いや当選祝いなどとして、活動費をポケットマネーで配りました」

 今回の買収事件について、自身の裁判でも語っていなかった内容だ。

 そして、佐藤被告へ渡した30万円については、

「佐藤さんには失礼な言い方だが、無所属で後援会もないので票を集めるのは無理。期待していないし政治的な力はない。漠然と案里を応援してくれればと思った」

「2019年は統一地方選があった年。当選祝いとして渡しました」

 などと述べ、買収の意図ではなかったと説明した。

 また、河井元法相は当選8回のキャリアがありながら、自民党広島県連の会長になれなかったことも、カネを配った一因だったと話したという。

「県連会長は、岸田文雄首相が異例の任期延長を繰り返していて、(岸田首相は)当時は外務大臣という立場で忙しいので、私にもチャンスがあると思っていたが、私よりキャリアが少ない(岸田首相の)親族の議員がなってショックでした。そのとき、ある自民党の重鎮県議に聞くと『コネをつけないといけない』と助言されました。参院なので、県全体で(活動費を配るのが)許されると思った。助言にのっとり、当選祝いなどを持っていった面もあります」

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「すべてをのみ込む、引き受けると決めたので」