社会人になって改めて医学部を目指し、「ビリおじ」の名で受験記録を配信してきたYouTuberがいる。3浪の末、45歳で合格を手にした医学部受験のリアルを、週刊朝日ムック『医者と医学部がわかる2023』(2023年1月発売)から抜粋して紹介する。
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2022年2月22日、自身のYouTubeチャンネルで大阪医科薬科大学の合否確認を生配信した。
「……あったぁ!」
橋本将昭さんの口から待望の一言が発されると、チャット欄はお祝いメッセージで埋め尽くされた。現役時代から数えて5度目、45歳で掴んだ医学部合格だった。
医学部進学率の高さで知られる私立東海高校を卒業後、2浪で京都大学農学部に進学。だが授業には身が入らず、次第に大学から足が遠のいた。アルバイトで貯金ができてからは起業に興味を持ち、喫茶店経営、バリ島のスパ経営と、ますます学生とはかけ離れた生活に。大学は休学と留年を規定いっぱいまで使い、11年半在籍した後に退学した。
バリ島から帰国し、大学時代にアルバイト経験があった医学部専門予備校の講師として再スタートを切ったのは、37歳のときだ。
苦労したのは数学 過去問反復を徹底
「バリ島で過ごした4年間、多くの人がスパで癒やされ、元気になる様子を見て、人の健康を支える医師の仕事に改めて魅力を感じ始めました。だからいずれは医学部受験もありかな、と考えてはいたものの、結婚して家族がいたため、まずは働いて余裕を作ろうと。受験勉強は、予備校講師になって6年目に始めました」
医学部受験生となってから始めたYouTubeチャンネルやSNSでのハンドルネームは「ビリギャル」ならぬ「ビリおじ」。「おじさんだし、成績はビリだろう」という自虐と「ビリからのスタートという逆境を乗り越え、合格を果たす」という決意を込めた。
講師として生物、化学の授業を担当していたため「ある程度の勝算はあった」という橋本さんだが、受験勉強には予想以上に苦戦した。
「一番大変だったのは、数学です。英語や地理は大人になって知識や読解力が身についているぶん、時間をかければ何とかなる。でも数学は、問題の解き方を理解する以上に、問題を素早く処理する反射神経が重要なんです。理解の部分は昔のレベルに戻せても、この反射神経の部分はなかなか戻りませんでした」