大黒:最初は自分だけで看ていました。でも、しばらくしたらママがキレ始めたんです。私もおなかの痛みをこらえて看ているのに、親子だから「何よその態度!」って思うじゃないですか。このままだと互いを刺し殺し合うぐらいの極限状態になった時に、二人で腹を割って話し合った。「どうするのが一番いいの?」と聞いたらママが、「お金がないわけじゃないんだから私を施設に入れなさいよ」って言ったんです。「娘が自分のためにキリキリして泣きながら介護をしているのが幸せだと思ってるの?」「一生懸命頑張ってるみたいな口をきかれたらママは本当にたまらない」と。「本当にいいの?」って聞いたら、「ヘルパーさんには頼みやすい」と言ってました。「明日ライブの本番がある娘を寝かせてあげたいのに、自分がトイレに行くために夜中に頼まないといけない。それがすっごく嫌だ」って。ママが「施設に入居したい」と言ってくれたおかげで、私もママと一緒に楽しむ側に回ることができました。
私の介護の経験としては、ネットばかり信じないことですね。不安が山盛りになるだけです。いろんな方にいろんなことを直接聞いて、ネットはある程度の指標にする。実際に施設を体験するのも大事ですが、やはり相性のいいお医者さんを見つけることが大切です。
■「のんびり行こうよ」
―2015年、代理出産が実らず、子宮の全摘出手術を行い、長年患ってきた様々な子宮疾患を完全克服。だが、腹筋を切ったことで力強い声を出すことが困難に。一時は歌手として復帰は厳しいように思われたが……。
大黒:臓器があったところがないわけですから、腸や卵巣が泳いでしまうじゃないですか。そこを整えるリハビリをやっているうちに、代謝も良くなってきたんでしょうね。元々免疫は高いほうですが、「臓器が繋がってきたかも」みたいな気持ちになっていきました。おなかに少し力が入ってきた感覚があったので、歌のトレーナーさんに見てもらったら、良いことを言ってくれたんです。「ないものを戻そうとしないこと。新たな体でスーパー歌い手を作ろうよ」って。
しばらくトレーニングを続けていたら声が出てきました。それで古巣のビーイング(現・B ZONE)のマネージャーさんに相談すると、「のんびり行こうよ」と言ってくれて、16年6月、“実家”のようなビーイングで活動を再開することに。みんなが「戻ってこい」と温かく迎えてくれてうれしかったです。(フリーランス記者・坂口さゆり)
※AERA 2023年7月3日号より抜粋