AERA 2023年7月3日号より
AERA 2023年7月3日号より

■論理力と計算力と直感

 成績は国ごとに代表選手の得点を加算して、各国別の順位も発表する。ここ10年のベスト3を表にしてみた。

 やはり中国の強さが際立つ。お隣の韓国もなかなか強豪だ。比べて日本は……と思うかもしれないが、実はこれ、「教育制度と関係している」と藤田さんは説明する。大会は毎年7月に開催されるが、多くの国の進級・進学は9月だ。他国では9月に3年生に進級して学力が充実した高校生が翌年の7月に挑んでくる。日本は高2のときに国内予選で選手を決定し、翌年高3になって3カ月で大会に出なければならない。

「実質的に1学年上の高校生と競うことになり、この時期の1年はかなり大きい。加えて中国は人口が多いので、確率的に優秀な選手が集められる。アメリカは大学入試も終わり、選手を集めて1カ月ほどのキャンプをすると聞きます。韓国は日本と同じ春が進級・進学時期ですが、ここ10年ほどソウル市内の特定の高校からしか選手が選ばれておらず、やはり集中的に強化訓練がしやすい」(同)

 藤田さんによると、解くためには論理力、計算力のほかに「直感」も求められるという。

「最初にパッと解が浮かんで、あとからそれを理論立てて説明していく。たとえるなら将棋藤井聡太さんみたいなヨミが必要です」

 代表選抜試験となる国内大会には4489人が挑戦した。最終選考合宿を経て、6人の代表が決まった。その後は4回の通信添削で強化を図る。これで過去10年間、日本代表の誰もメダルを逸していないのは十分に健闘しているといえるだろう。

■大会で出会い今も議論

「でも数学オリンピックの意義は、テストの点やメダルだけにあるのではありません」

 と語るのは、京都大学大学院理学研究科准教授の尾高悠志さん(37)。尾高さんは3回も数学オリンピックに参加して、金一つ、銀二つの成績をあげている。20年前の日本開催時にも出場している。

「いちばんの楽しさは、世界中の中高生の数学好きが一堂に会することですね。選手だけでなく運営の人とも交流ができて、大いに刺激になりました」

 数学者になりたいと、中学時代からぼんやりと考えていたという。地味な勉強の日々の中、数学オリンピックのコミュニティーはその夢に、出会いの喜びを与えてくれた。初参加の01年アメリカ大会。大会会場にアメリカ人選手が制作した、大学レベルの数学の研究報告のポスターが貼られていた。

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