求む!下戸でも隙をつくる方法(イラスト:サヲリブラウン)
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 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 こう見えて、私は下戸です。私の姿かたちを見たことのない人にとっては何のことやらと思いますが、どうやら私は酒が強そうに見えるようです。言いたいことはわかる。

 父親が極度の下戸なこともあり、我が家ではアルコールが食卓に上ることはありませんでした。だから、飲みたいとも思わなかったのです。

 飲めない体質だとわかったのは、リキュール入りのチョコレートボンボンを食べたときでした。味は苦いし、なんだか胸が苦しくなるし、いいことなし。大学時代の飲み会ではウーロン茶ばかりでした。

 社会人になり、今度は仕事の付き合いで飲みの席に参加することが増えました。お酒が飲めたほうがよい場面もありトライもしましたが、一口二口でも毎度気分が悪くなるだけ。これは私には無理だと悟りました。以来、食べる専門です。

 つい先日、そんな私の口のなかにアルコールが入ってきました! デザートのシャーベットに、うっすらリキュールが含まれていたのです。普段ならアルコール探知機の如く即座に気づくのですが、甘くて冷たくておいしくて、ついついペロリ。

 同席していた友人と会話を続けているうちに、心臓がバクバクしてきました。呼吸も浅く

なり、なにかおかしい。こりゃアルコールが入っていたな?

 いやあ久しぶり! こんにちはアルコール! 体調に変化はあれど、幸い「悪化」というほどでもなく、結果、普段の自分では決して解除できない備え付けの警戒網のようなものが、自然にほどけていくのを感じました。

 俯瞰の自分がアルコール入りの自分を見下ろして思うことはひとつ。いまの私には、隙がある! お金を払ってでも手に入れたいと常々熱望している隙が!

 色恋の話だけをしているのではありません。人付き合いにおいて、相手を緊張させずに済む「間」のようなものが隙です。これがあるとないとでは、大違いなのです。

イラスト:サヲリブラウン

 私は隙がなく威圧的に見えるようです。それで助かる場面もありますが、隙があるほうがうまくいく場面も数多い。年齢を重ねるとますますそう。

 普段からは想像できないほど、わけもなく自分がニコニコしているのがわかります。いつもこうだったら、いいのにねえ。お酒の力を借りずに隙を手に入れる方法、改めて探してみます。

○じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中

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