質の高い教育を、無料で、世界中のすべての人に提供する――そんな壮大なスローガンを掲げ、現在、世界中で話題となっているNPO「カーンアカデミー」。



 創設者のサルマン・カーンは、インドとバングラディシュの両親のもと、アメリカで生まれ育った映画俳優。インド映画史上もっとも有名な俳優のひとりとも称される彼ですが、ハーバード・ビジネススクール、マサチューセッツ工科大(MIT)で学んだ秀才でもあります。同アカデミー設立のきっかけは、遠方に住む12歳のいとこに数学を教えるため、インターネットを使ったという「とても些細なこと」。しかしアカデミー設立後、話題が話題を呼び、2012年半ばには、月間600万人以上の教え子を抱える"大教室"へと成長を果たすことになります。



 彼の著作『世界はひとつの教室』には、その経緯が詳しく書かれ、学びの分野にテクノロジーが起こすイノベーションの可能性について、熱く語られています。その中で彼は、日本の学校教育に見られるような、従来の教室モデルは最善のものではないとし、テクノロジーには「教育をもっとポータブル、フレキシブル、パーソナルにする力、独創性や個人の責任感をはぐくみ、学習プロセスに宝探しのわくわく感をとり戻す力があります」と主張します。



 彼のこの思いに共感した、シリコンバレーの優秀なエンジニアたちが同アカデミーに移籍し、かのビル・ゲイツが運営する財団やグーグルが出資。新しい彼の教育思想は確実に広まり、また現実のものとなっているのです。



 日本政府も2020年までにすべての小中学生に、タブレット端末などで使うデジタル教科書を配布するという目標を立てています。また民間企業ではそれに先んじて、学習タブレット実用化が進行中です。通信講座で知られる大手教育企業「ベネッセ」では、2014年4月に小学生向け学習タブレット「チャレンジタッチ」を開講。たとえば、漢字学習では書き順から「とめ」「はね」まで、デジタルならではの個別指導で、正しいかどうかタブレットが判定。音や映像で見せることにより、数学の図形問題や理科の実験などもわかりやすく理解することができるのだそうです。



 なお、ベネッセは昨年、小学生4年生らを対象に算数のテストを実施。1ヶ月程度、同端末で学習した子どもと、校外学習していない子どもたちの学力定着度について調査したとこ、端末学習者は72.3%が成績上昇、一方、校外学習していない子どもの成績アップ率61.5%に止まり、10%以上も差がつく結果となりました。



 デジタルタブレットを使っての学習はこれから本格化していきます。カーンが本書で示唆する"未来の教育"。世界中で教育の変革が今まさに起こっていると言えるのではないでしょうか。





■関連リンク

小学生向けタブレットで学ぶ通信教育「チャレンジタッチ」

http://sho.benesse.co.jp/s/touch/