「鎌倉殿~」で共演した小池栄子さんや小栗旬さんも、大河が終わった直後の仕事は舞台だった。ドラマでは台本のセリフは絶対だが、舞台では、自分が違和感を覚えたら伝えることもできるし、相談することもできる。一緒に作っていける感覚があった。大河の後で舞台に戻っていく先輩たちを見て、「だからなのかな」と思った。
「演劇が一つ楽しいのは、誰かにとっての真実を突き詰めていく作業ができるからだと思うんです。その真実は必ずしも、その作品に関わる人たち全員の真実じゃないことが多いんですが、役を通して、その物語が言いたいことを理解できたときに、その真実を自分のものにできるというか……。たとえば、殺人犯が主人公の物語でも、最初と終わりではその主人公の見え方が全く違ってくることってありますよね? 演じる側もそうだし、観る側も、悪人のはずの主人公に共感してしまったり。そうやって、一人の人間を善悪だけで判断するのではなく、もっと多角的に見つめていくことは、人間が生きていく上で必要な作業なんじゃないかと私は思うんです。それをお説教したり、説得したりするとかじゃなく、エンターテインメントとして舞台上で見せていけることが、かけがえがないことだなって」
(菊地陽子、構成/長沢明)
※週刊朝日 2023年3月31日号より抜粋