あと3年でデビュー40年を迎える作家中沢けいによる、少し不思議な家族の物語だ。
東京・麹町の古い屋敷に暮らすシングルマザー美智子さん、お嬢さん気質の母富子さん、ロリータファッションに身を包む娘真由ちゃん、母に長年使われてきた使用人きくさんとその娘の紀美ちゃんの5人の物語。偶然ながら亥年生まれの女性ばかりが揃っている。
一番年上のきくさんと一番年下の真由ちゃんの間には72年という年月がある。この二人が見てきた東京には、その年月の分だけ違いがある。きくさんが見た空襲で焼け落ちた麹町を、そして真由ちゃんが歩き回る裏原宿を、二人は互いに想像することもできないだろう。だが、きくさんが「若い人が着ているぶわっとしたやつ」と言ってダウンジャケットを欲しがり、真由ちゃんがロリータ服を作るため靖国神社の骨董市に出向く場面からは、異なる時代が重なっていく様子がうかがえる。
日々新しく変わっていく東京だが、都心の雑多さや江戸のはずれの長閑さを同時に持つ麹町を舞台に、昔と今が共存する東京の姿を浮き彫りにする心の温まる小説だ。
