コンピューターの発達と普及で、かつては大変だったことが手軽に実現するようになった現代。だが、なかには意外なシステムでサービスを提供しているものもある。その意外なシステムとは、“人海戦術”だ。
Sansan株式会社が提供する名刺管理アプリ「Eight(エイト)」は、アプリで名刺の写真を撮影、サーバーに送信するだけで名刺データを読みとり、登録してくれる。名刺というツールは便利だが、会社によって書式が異なるうえに、肩書なども複雑。きちんと管理するのは手間がかかるし、営業職といった多くの人に会う仕事をしていると、名刺がたまる一方で管理ができないことも多い。
それを“写真を撮るだけで”データ化してくれるのだと言うから、これは助かる。「Eight(エイト)」は、正式サービスを開始して3日で1万人がユーザー登録し、1日当たり数万件の名刺データが登録されているという。
さぞ、高度なOCR技術(手書き文字や印字された文字を光学的に読み取る)と社名、名前、肩書などを判別するAI(人工知能)が活用されているのかと思いきや…実はオペレーターが”手入力”しているのだという。
複雑な名刺データを間違いなくデータ化するには、人力が最も効率的ということなのだろうか。一方「セキュリティーが心配」という声もあるそうだが、Sansan社によると入力工程を12分割し、一人一人のオペレーターには細分化された情報しか届かないのでその問題はないとしている。
確かによく考えてみれば、「1、名刺をスキャンして読みとる」→「2、OCRでテキスト化」→「3、社名、名前、肩書、住所、電話番号、メールアドレス、社のキャッチフレーズ……といったさまざまな情報を分類」→「4、データ化」という工程を考えると、3番目の情報を分離する工程はシステム化するには複雑怪奇すぎると思える。
OCRソフトを使ったことがある人なら、最新のソフトでも「3」と「ろ」といった似た字の読みちがえ、半角スペースなどの入り込みといった「そのまま使えないデータ」が出てきた経験があるだろう。その現状を考えると、「名刺のデータ化」はいまだに、人の手でやらなければならないのかもしれない。
とはいえ、名刺データを入力しているオペレーターは、細分化された画像データから文字を読み取って打ちこんでいくだけの作業を一日中続けることになる。単純入力作業のみの仕事だ。時給がいくらなのか、それとも1データあたり○円という報酬なのかはわからないが、いわゆる“内職”のようなものには違いがない。ある人が楽をするためには、他の人がその苦労を引きうけているというシンプルな構図だ。
いくらコンピューターが進歩しても、まだまだ不得意なことは多い。その部分をサービス化しようとすると、結局は人海戦術に頼らざるを得ないのだ。その一つが「名刺入力アプリ」…いや、正確に言うと「名刺入力をお願いするアプリ」である。