徳川六代将軍七代将軍というと、五代犬公方綱吉、八代暴れん坊将軍吉宗にはさまれて地味なことこの上ない。だが地味だろうがなんだろうが、その時代にはそれなりに大事や小事があり、細かく見ていくと尽きせぬ面白さがある。
本書に登場するのは、六代家宣と七代家継の側近であった間部詮房。そして家宣・家継に儒学者として仕えた新井白石。将軍側近というと、寵愛をカサに好きなことやるようなイメージがあるが、この二人にそんなことはない。七代家継は5歳で将軍になり8歳で死んでしまうのであるが、間部は、六代に託されたその幼い将軍を大切に、かつ厳しくお育てして、そして幼将軍からは「えち、えち」(越前守、というのが子供なんでうまく言えない)と慕われている。間部が出かけてると、そろそろ帰ってくるからって迎えに出るという幼い家継。可愛い。
何か事が起きた時、間部は白石に相談する。白石はビシッと、理知的すぎてゆるがない返答を申し上げ、間部も深く納得して、しかし老中たちに反発されないようにうまく根回しして事を収める。
そう、側近というものは、将軍個人に引き立てられた者である。幕府には決まった道を通ってその地位についた老中とか大老とかがいる。各種派閥のある儒学者たちもいる。そんな中で、側近という立場は、将軍がいなくなれば力を失うわけで、そのへんの構造がこの本読んで改めてわかって、なるほどいろいろめんどくさいだろうなあと思う。将軍に意思がなくて側近が悪辣だったりした場合はどうか。想像すると「水戸黄門」を思い起こしてしまう。
徳川六代七代八代の三代に仕えた儒学者の室鳩巣が手紙に残した「六代七代将軍と側近の有り様」をもとに、歴史学者が書いている。どんな時代でもちゃんとした人はちゃんとしてる、ということがわかってホッとする。まあ、どんな時代でもとんでもないやつはとんでもない、ということでもあるんだろうけれど。
※週刊朝日 2015年2月20日号