日々多くの情報が集まり行き交う情報の大集積都市・東京。「特別区」と呼ばれる東京23区のうち、IT産業の中心地としてすぐ思い浮かぶのは渋谷区だろう。
総務省統計局の「経済センサス」(公表している最新値は2009年)によれば、主にIT産業が属する「情報通信業」の事業所は、渋谷区内に2万6520ある。また、その従業者数は45万9519人だ。渋谷区内の全産業に占める「情報通信業」は、事業所数で8%(23区内中第3位)、従業者数で15%(23区内中第4位)となる。情報産業集積の区として、上位に位置していることがわかる。
さらに、産業小分類により「インターネット付随サービス業」に属する民間事業所の数を見ると、最多である港区の「323」に次いで渋谷区は「302」。やはり、渋谷区はIT産業に代表される土地柄と言えるだろう。
近年の渋谷区を象徴する言葉として挙げられるのが「ビットバレー」だ。渋谷でインターネット関連のベンチャー企業が集中する周辺地域のことを指し、その名は「渋い:Bitter」と「谷:Valley」から来ている。アメリカのシリコンバレー (Silicon Valley)にもかけたものだろう。
なぜ、ビットバレーのようなものが形成され、渋谷はITの街となったのか。これには諸説ある。
例えば、1999年2月に渋谷区周辺のベンチャー企業の経営者らが発表した、有能な起業家を輩出しようとする活動「ビットバレー構想」がきっかけとなり、渋谷がその拠点となっていた。また、かつて“山の手”“大人の街”といわれていた渋谷が、1973年の「パルコ」開業などを契機に急速に若返り、若者の街に変貌していった。若者のファッション・情報が集積・発信される。これが、先端のIT産業を呼び込む要因となったのかもしれない。
ほかにも、いろいろと挙げられている。渋谷ではIT関連企業が発展しやすい基盤や土壌がすでに出来上がりつつあったため、今でもLINEやmixi、DeNA、サイバーエージェント、GMOといった多くの企業が集結、それがまた新たに関連業種を呼び込む。集積の利益だ。また、かつてとは異なり、副都心に位置づけられる渋谷は交通の便が非常によいため、IT企業にとっても良質のオフィスが得やすい。そうした相乗効果によって、渋谷区のステータスも上がり、企業にとってもイメージアップにつながる。
さまざまな要因が合わさり絡まって、この結果が生まれているのだろう。おそらく、それぞれの足し算ではなく、「掛け算」だ。ITを生み出し、ITを育て、ITを呼び込む。それは今や渋谷の文化なのである。その文化が醸成されるのは、一朝一夕ではいかなかっただろう。