■まるで時代劇をやっている感覚
──任侠映画初出演の伊藤さんにとってヤクザ世界は全く知らない世界。本宮さんからアドバイスを受けた。
伊藤:静也は新鮮組三代目総長を襲名しますが、その襲名式一つをとっても知らないことばかりでした。盃を着物の中にしまう時の返しや紙の折り方・包み方など、驚きの連続です。きちんと和服を着て口上を述べながら盃を交わす。それも僕にとっては時代劇をやっているような感覚でした。
本宮:時代劇と任侠作品は共通点が多いから。こうした作品がなくなると、かつらを作ったり小道具を作ったりする職人さんもいなくなる。そういう意味でも、時代劇や任侠映画は日本の文化として残していきたいという思いがあります。
伊藤:僕はこの映画に出て、先に本宮さんがおっしゃっていた、弱きを助け強きを挫き、義のためならば命を惜しまない、そんな精神を持っていたいと思いました。
本宮:健太郎とは初めて仕事を一緒にしたけれど、こんなにいい役者がいたんだとびっくりしました。自分が健太郎と同じ年齢の頃はふざけてばかりいたので、本当に感動しました。芝居の取り組み方も僕が勉強になるくらいだったし、芝居に一切手を抜かない、隙がない。観客の方々には伊藤健太郎の芝居をよく見てほしいと思っています。
伊藤:ありがとうございます。僕の芝居に対する基本のスタンスはまったく変わっていません。あえて言うなら、芝居がさらに大切に思えるようになりました。芝居をより好きになったし、面白さを再確認できたと思っています。
本宮:健太郎はおそらく人としてどんどん成長しているんだと思う。内面から出る何かを少しでもこの作品で出せたのでは?
伊藤:そうでないと役者である意味がないと思いました。いろんな意見があることを覚悟した上で、役者として自分がやりたいことを表現していく。ありがたいことに今回のように僕を求めてくださる場所がある限り、現場にい続けたいと思います。この映画は、年代や性別に関わらず、多くの方々に楽しんでいただける作品ではないかと思います。「家族3世代で見ました」なんて言っていただけたらすごくうれしいなと思っています。
(構成/ライター・坂口さゆり)
※週刊朝日 2023年5月19日号