オテル・ド・パリ・モンテカルロ ゲストリレーションズ ディレクター FLOREANA RUBEGA フロリアナ・ルベガ/1966年生まれ、イタリア出身。91年にモンテカルロSBMの営業部に入社。98年にオテル・ド・パリ・モンテカルロの宴会部に入り、2001年にマネージャー。09年に社内初のカスタマーリレーションズ部門を設立(写真/オテル・ド・パリ・モンテカルロ提供)
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 全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA 2023年7月3日号にはオテル・ド・パリ・モンテカルロ ゲストリレーションズディレクター FLOREANA RUBEGAさんが登場した。

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 地中海沿岸の高級リゾート地、モナコ。その名門老舗ホテル「オテル・ド・パリ・モンテカルロ」(Hotel de Paris Monte−Carlo)で、世界中の顧客を迎えてきた。中でも要人らVIP客をもてなす「ゲストリレーションズディレクター」として采配を振る。

 最高の滞在にしてもらうため、最も大切にしているのが顧客への事前のヒアリングだ。予約が入った時点で、滞在理由を確認する。結婚記念日なのか、誕生日なのか。もしかしたら一生に一度の大切なイベントかもしれない。事細かに聞き取り、準備し、チェックイン時に感じ取った顧客の雰囲気を加味して仕上げる。

 リピーターであれば、履歴のチェックを欠かさない。以前の滞在時、どこのレストランで食事をして、何を食べたのか。好きな花は何か。ペットがいるか。すべて確認し、完璧な状態で迎え入れる。

「お客さまの好みや滞在理由に合わせてホテルのスタッフや職人と一緒にオーダーメイドの作品を作っていく。オーケストラの指揮者に似ているかもしれません」

 特に印象に残っているのが、あるフランス人夫妻の結婚記念日の滞在だ。いつもは妻が宿泊の予約をするが、その日は夫から連絡があった。「妻にサプライズで喜んでもらえるようにしてほしい」。大役を任された。

 そこで、2人が結婚してからこれまでの思い出の写真を夫から借り、バルーンとともに部屋中に飾り付けた。外出から戻り夫妻がドアを開けた瞬間、先に泣き出したのは夫、続いて妻も号泣した。「そんなすてきな人生の一場面に自分が貢献できたことが本当にうれしかった。思わずもらい泣きしてしまいました」

 時にはクレームの対応もあるが、「自分のことを信用しているからこそ耳が痛いことも言ってくれているのだと思う。誠実に対応すれば思いは必ず伝わるので最善を尽くします」と前向きだ。

 今後の目標は二つある。「一つは大好きな職をもっと極めて、ホテルのアンバサダーのような存在になること。もうひとつは部下たちに自分のノウハウを伝授し、オテル・ド・パリ・モンテカルロを所有するモンテカルロSBMグループが掲げるアールドヴィーヴル(人生を豊かにする術)の拡散に貢献することです」

(ライター・浴野朝香)

AERA 2023年7月3日号

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