宮崎薫(みやざき・かおる)/医療法人社団暁慶会はらメディカルクリニック理事長・院長。日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医・指導医(写真:はらメディカルクリニック提供)
宮崎薫(みやざき・かおる)/医療法人社団暁慶会はらメディカルクリニック理事長・院長。日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医・指導医(写真:はらメディカルクリニック提供)
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 第三者からの精子・卵子提供で生まれた子どもたちの出自を知る権利。海外には法で権利を保障する国があるが、日本は法整備が進んでいない。そうしたなか、はらメディカルクリニックでは、生まれた人の出自を知る権利を守れるようドナーの募集方法を変えたところ、7割が非匿名ドナーを選択した。同クリニックの宮崎薫院長は国によるサポートの必要性を指摘する。AERA 2023年6月12日号の記事を紹介する。

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 匿名をやめ、AID(非配偶者間人工授精)で生まれた人に情報を公開する前提にしたら精子のドナーになる人がいなくなってしまう、というのが生殖補助医療に関わる人々の間では定説でした。しかし実は逆の事例も各国でときどき報告されています。

 当院も2022年2月からドナーの募集方法を変えたところ、登録者が前年の9倍に増え、うち7割が非匿名を選択しました。以前は医学生に限定していた対象を20~39歳の健康な男性に広げ、現状ドナーが不足していることや子どもの出自を知る権利を守りたいこと、婚姻した夫婦が配偶子提供を受ける際にドナーは法的な親にならないことなどを応募者に説明したところ、非匿名を選択する方が多かったのです。

 この結果には私も驚きましたが、我々の思いが伝わったことは率直に嬉しいです。当院だけでこれだけ非匿名ドナーが集まるのですから、今後もし国が本腰を入れればもっと大きな成果が出るかもしれません。

 日本産科婦人科学会の方針のもと、当院もAIDは婚姻した夫婦を対象に実施し、匿名ドナーの精子を使用していますが、AIDが一定回数不成功だったときは独自のガイドラインに基づき、非匿名ドナーの精子を用いた体外受精に進みます。父親の血液型と一致するドナーの精子を凍結した順に使用するので、治療を受けるご夫婦がドナーを選ぶことはできません。これは、AIDの過程で最優先されるのは生まれる子どもの福祉であるという当院の原則からです。

 ドナーの情報が最初に開示されるのは妊娠から出産の間です。ドナーの趣味や職業、精子提供する理由などの周辺情報と、3親等以内の病歴を夫婦に伝えます。生まれた人が18歳以上になり、非匿名ドナーについてさらに知りたいと思った際は当院に連絡を入れ、面談やカウンセリングを受け、さらに当院の倫理委員会の審議で承認されれば、当院が生まれた人とドナーの仲介を行います。その際のカウンセリング費用は、妊娠後にご夫婦からあらかじめ受領しておく形です。

 子どもの出自を知る権利を保障するため、国には親が子どもに確実に告知できるような支援と、ドナーが非匿名を選択できるような啓発活動を望みます。人工授精も体外受精も、技術自体はもはや難しくないのですが、大切なのはそれ以外のこと。生まれた人のカウンセリングをどう行っていくかといったことを国がしっかりサポートする必要があると思います。

AERA 2023年6月12日号