そんな彼女のタレントとしての優秀さは、バラエティ番組だけではなく、情報番組、教育番組、報道番組にも応用が利くものだった。大きな矛を振りかざし、こじるり大将軍はテレビという戦場を縦横無尽に駆け回っていた。

 本来、小島は何でもできてしまうタイプの人間なのだと思う。そんな彼女は、バラエティ番組の仕事にも興味を持ち、そこに適応しようと努力してきた。そして、文句なしの結果を出し続けてきた。

 しかし、残念ながら、バラエティ番組だけは、何でもできる人がずっととどまっていられるような世界ではない。そこで長く生き残っていくためには、バラエティに特化したスキルが求められる。魂を削って本音を吐き、視聴者の心を揺さぶる。本質的にはその覚悟が必要なのだ。

「笑いのためなら何でもする」という職業倫理を持っている芸人という人種が、バラエティ番組を席巻しているのはそのためだ。芸人は恥も外聞もなくまっすぐ笑いに向かうことができる。

 また、近年ギャルタレントが増えている理由の一つは、ギャルという属性が「本音で話している」ということを示す記号になるからだ。バラエティの世界では、何でもそつなくこなす優秀さは、長期的にはむしろその人の足を引っ張ることになる。

 そして、小島にとってとどめの一撃となったのが例のスキャンダルである。ベッキーという先人を例に引くまでもなく、優等生キャラはスキャンダルに弱い。完璧であるという大前提が覆されてしまうことになるので、そこからの立て直しが困難なのだ。

 バラエティという戦場ではイジりを拒否することはできない。しかし、イジられても返しようがない。開き直っても必死で否定しても鼻につくと思われてしまう。『ダウンタウンDX』で鬼越トマホークの2人にこの話題を振られたときの彼女は、陸で溺れている魚のようだった。

 ここまでに書いたことは小島に対して厳しすぎると感じた人もいるかもしれないが、私は彼女が日本をいったん離れるのは悪いことだとは思わない。そもそも、彼女のように飛び抜けて優秀で好奇心旺盛な人間は、一つの場所にずっととどまっていられないものだ。逆に言うと、たかが醜聞一つで延々とごちゃごちゃ言われ続ける日本のエンタメ界は、彼女には狭すぎたのかもしれない。

 中国のエンタメシーンを席巻した彼女が、「天下の大将軍」として凱旋帰国するのもそう遠い日のことではないだろう。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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