飲食店やエンタメ施設などを一人で楽しむ人を意味する「おひとりさま」。言葉自体はずいぶんと浸透しましたが、まだまだハードルが高いと感じる人も多いのではないでしょうか。特に心身に老いを感じ始める年代になると、おっくうさも増してくるかもしれません。けれど、「50代こそ人生で最強にして最後のひとり旅適齢期」だと言うのは、料理家の山脇りこさん。なにせ、彼女自身が50歳を過ぎてひとり旅のすばらしさに開眼した一人なのです。書籍『50歳からのごきげんひとり旅』は、そんな山脇さんがひとり旅のノウハウや魅力について綴った一冊です。
同書の第1章ではまず、ひとり旅の心構えや、持ち物、ホテルの選び方などについて紹介。中でも、現地での過ごし方としてあらかじめ心がけておきたいのが「歩く」ということです。経験値が上がりマンネリすることも増えてきた50代にとって、ひとり旅の魅力のひとつに挙げられるのが「"初めて"にたくさん出会える」こと。誰かと相談したり譲り合ったりせず、ひとり気ままに街を歩いていたからこそ、初めて出会えた景色がいっぱいあると山脇さんは言います。「ひとり旅は、歩くことでぐっと感動が深まる」(同書より)のだそうです。ほかにも、「『行きたい場所』を集めたリストをグーグルマップで事前に作る」「ホテルの清潔さはクチコミで確認」など、旅行前にやっておくとよいノウハウがいろいろと紹介されています。
さて、次からはいよいよ実践です。第2章では国内、第3章では海外での山脇さんのひとり旅記となっているのですが、これがエッセイでありながら旅行ガイドも兼ねているほどの情報の充実度。国内は富山~飛騨高山、甲府、奈良、大阪、京都、沖縄、金沢、長崎での旅行の思い出が綴られているとともに、ひとりごはんにおすすめの店やお土産物店などの名前もリストアップされていて、自身でひとり旅する際の参考になります。料理家の山脇さんが太鼓判を押すだけあり、訪れてみたくなるお店やスポットが満載です。
海外編においてもそれは変わらず。特に、コロナ禍前まで「通っていた」というほど何度も訪れ、ガイド本まで出している台湾に対しては、山脇さんの並々ならぬ愛や親しみが詰まっています。また、ハードルの高さを感じながらも勇気を出して行ったパリは、そのぶん大きな刺激を感じた滞在だったことがうかがえます。
「60代、70代に向けて、思い出したらごきげんになれる、ごきげん玉を貯金しておこう」(同書より)という山脇さん。たくさんの初めてに出会えて、帰ってきたときにすがすがしい達成感を味わえるひとり旅は、まさにこのごきげん玉貯金にうってつけです。いきなり遠出するのは大変なので、まずはちょっとした近場のひとり旅から始めてみるのもいいかもしれません。50代だからこそ見える景色や感動がそこには待っているはずです。
[文・鷺ノ宮やよい]