1970年代の日本では、夫婦と子の世帯が全世帯の45%を占めていました。それが現在では2割台にまで減少。かわって世帯構成のトップは一人暮らしの単身世帯となり、2040年には単身世帯率は4割にまで達する見込みとされています。単身者には一度も結婚したことがない生涯未婚者だけでなく、離婚して再びシングルになった人や配偶者と死別して独身になった人も含まれるため、結婚しても子どもを持っても誰もがいつかは「ソロ」に戻る可能性があると言えます。こうして社会構造が変化すれば、世の中の消費の構造も変わるのは当然のこと。「いつまでも性別や年齢、世代で消費者をとらえているのは時代遅れである」と独身研究家でコラムニストの荒川和久さんは新著『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』に記します。同書では、激増するソロ市場で今後どんなものが売れるのか、そのヒントと本質について詳しく解説されています。
今後ますます巨大化していくことが見込まれる独身市場。荒川さんは同書で、ソロの属性を4つに分類しています。それは、ゆくゆくは結婚する独身者の「エセソロ」(全体の20%)、結婚意識が低い「ガチソロ」(全体の20%)、結婚して家庭を大事にする「ノンソロ」(全体の40%)、結婚はしたけれどソロでの行動を好む「カゲソロ」(20%)。独身の「エセソロ」「ガチソロ」だけでなく既婚者の「カゲソロ」も加えた60%を「ソロ市場ターゲット」として見るべきとの考えを示しています。昭和時代から一貫して続いてきた「家族市場」から、独身・有配偶にとらわれない「ソロ活市場」へ。これからは消費の個人化に対応した適応戦略が必要になると荒川さんは記しています。
そうした時代で大切になってくるのが、「視点と視座を変える」(同書より)こと。視点とは「どこを見るか」で、視座とは「どこから見るか」です。たとえば、独身男性で「結婚なんて、家族のATMなどにされるだけで嫌だ」という感情を抱く人がいるいっぽうで、子どもを授かった既婚男性には「家族のために一生懸命がんばる自分でいさせてくれてありがとう」という感情を持つ人もいます。ひとつの事柄でも見方ひとつでまったく違うものになることがわかります。同じ商品を売るにしても、今後は視点と視座を変えたマーケティングが必要であり、逆を言えば「同じ商品でも文脈の工夫だけで、印象も変わるし、客の行動も変わる」(同書より)とも考えられます。
以前、紹介した『なぜ少子化は止められないのか』では、少子化社会を食い止めるための手立てが書かれていましたが、「少子化、人口減少は確実にやってくる」というのが荒川さんの見立て。「そろそろ私たちは、その現実を直視し、『人口は減り続ける』という現実を前提に適応戦略を考えないといけないフェーズに来ている」(同書より)ときっぱり記しています。そうした未来に向けてのマーケティングをいち早く学びたい人にとって、同書は有益な一冊となるのではないでしょうか。
[文・鷺ノ宮やよい]