粘菌は単細胞生物だが、たくさん集まってまるで一つの生きもののように動く謎の多い生物である。著者は粘菌の研究で「人々を笑わせ、次に考えさせる研究」に与えられる国際賞、イグ・ノーベル賞を二度も受賞。その愉快な授賞式の顛末と、迷路もやすやすと解くという粘菌の驚くべき知性について語る。
 粘菌がいっぱいに広がった迷路の入り口と出口にえさを置くと、粘菌はまず行き止まりの通路から体を引き上げる。次に複数のルートの中で体内の流動時間が長い通路から体を回収して最短経路だけを残す。彼らには原始的な時間認知や記憶の能力まであるらしい。
 関東地図の主要都市の位置にえさを置いた実験では、彼らがえさ場を結んだ線は全長距離や断線時の代替ルートなど諸条件を勘案した最適の複雑系ネットワークになる。これがなんとJR交通網とそっくり。脳も神経もない単細胞生物が、人間がさんざん頭を絞って作ったものと同じものを軽々と作っている。
 人間とはまるでちがう形の“賢さ”が刺激的。人はもっと粘菌のやり方を学ぶべし、とユーモラスに提案している。

週刊朝日 2014年12月19日号