この4月に消費税が8%に上がって以降、日本経済は誰が見ても停滞している。このような状況下で、安倍晋三首相はさらなる消費税アップを決断するのか……。国際公約だから上げざるを得ないとの見方が強いが、その一方で首相は、法人税の引き下げについては早々に明言している。経済界からの強い要請を受けて判断したらしいが、そもそも、本当に日本の法人税は高いのか?
 中央大学名誉教授の富岡幸雄は、実態を調べるため、2013年3月期の大企業の実効税負担率(法人税納付額÷企業利益相当額)に着眼。困難な作業の末に「実効税負担率が低い大企業35社」を割り出し、この『税金を払わない巨大企業』で実名を発表した。
 一見して、驚いた。たとえば1位の三井住友フィナンシャルグループは、0.002%となっている。税引前純利益が1479億円強あっても、支払った法人税等は300万円なのだ。以下、2位にソフトバンクの0.006%。3位にみずほフィナンシャルグループの0.09%と続き、金融関係が10位までに7社ある。それぞれの企業は脱税しているわけではないのだが、法定正味税率38.01%下にしてこの負担率の軽さは、やはり奇異だ。そこには、いったいどんなカラクリがあるのか? 富岡はその点についても詳しく解説し、さらには、タックス・ヘイブンと移転価格操作を利用して無国籍化しつつある多国籍企業の内実を紹介する。彼らは次々と新手の避税の手口やスキームを編みだし、国よりも自社の利益をひたすら追求しているのだ。
 欠陥税制のままではいくら法人税を下げても、国の財政は改善されず、国民は豊かになれない──国税庁の職員、税務会計学の研究者、企業の顧問として70年近く税に携わってきた富岡は、〈日本の財政や税制を真に改革するための遺言〉としてこの本を書いた。遺言の中身が実現されれば、法人税減税も消費増税も必要ない。

週刊朝日 2014年11月7日号