(撮影/原田和典)
(撮影/原田和典)
(撮影/原田和典)
(撮影/原田和典)
『アップアップガールズ(仮)1st全国ツアー アプガ第二章(仮)進軍~中野サンプラザ 超決戦~』 [Blu-ray Disc+DVD]
『アップアップガールズ(仮)1st全国ツアー アプガ第二章(仮)進軍~中野サンプラザ 超決戦~』 [Blu-ray Disc+DVD]

 そちらは10月になりましたか? 秋、来てますか?

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 こちらはつい先日から6月1日に逆戻りだ。なんでかって、それは9月30日堂々発売のブルーレイ&DVD『アップアップガールズ(仮)1st全国ツアー アプガ第二章(仮)進軍~中野サンプラザ 超決戦~』を見ているからだ。これがあればいつだって我々は6月最初の日曜日の午後6時、中野サンプラザの空気を吸うことができる。

 アプガの映像作品はこれで何本目になるのだろう。「KAPPOREエエジャナイカ」の圧倒的なカヴァーが聴ける私家版(といっていいと思う。当時の略称は、“アプガ”ではなく“ガールズ”)や、2013年春の対バンツアーをまとめた5枚組のオフィシャル・ブートレグ・ボックスなども入れたら両手でも足りないかもしれない。最近はほとんどすべてのイベントやライヴ会場にカメラが入っていて、随時ユーチューブでアップされている。毎日が成長過程のアプガの動きを事細かに記録公開してくれるスタッフには、いくら感謝しても足りない。

 作品は2枚組だ。ディスク1は中野のライヴ本編、ディスク2は1st全国ツアーの決定→中野公演の発表→中野当日までに行なわれた数々のライヴからの抜粋などがドキュメンタリー風に編集されている。あわせて5時間半はあるが、あの、どの瞬間を切り抜いても魅力のかたまりでしかないアプガのエッセンスをよく、この“短さ”に凝縮できたものだと思う。見た者なら誰も、「こんなにあっというまに感じられる5時間半はなかった」と思うはずだ。そして「アプガなら24時間でも48時間でも鑑賞し続けたい。睡眠なんていらない。食事だってとらなくていい。そんなことより、なにはともかくアプガだ」と決意を新たにする。

 ディスク1はブルーレイディスクだ。ぼくにとってブルーレイとは「DVDよりもさらに画像と音が鮮明」という、実にざっくりしたイメージしかない。それにしても、この画像、良すぎるほど良い。メンバー全員、きらきらしすぎだ。まぶしすぎだ。上昇気流に乗っているアーティストというのは、こんなにも輝かしいものなのか。アプガの場合、そこにアイドルならではのかわいさが加わるのだから、見ている側はひたすらテンションがあがるばかりだ。全員が休みなくいい表情をしているので、それをそのつどピックアップして一つの作品に編集するのは大変だったことだろうが、とにかく最高画質で最高のグループを見る喜びに浸れすぎて脳髄さえふるえる、といっても過言ではない。カメラに食いつこうとする佐保明梨を見よ。55分20秒あたりからの古川小夏を見よ。これを名場面といわずになんという。今のアプガの持っている途方もない熱気、それが一か所に凝縮されたかのような顔と動きの“圧”はもう、エモーションの神が乗り移ったとしか思えない。

 音質がまた、じつに生々しくて心に迫る。他アーティスト(アイドルに限らない)のライヴDVDの中には、現場で確かにあったはずの音程やアンサンブルのズレが修正されてCDとの違いがわからないほどキレイに編集されているものもある。「より破綻のない形で決定版を残したい」という気持ちはあって当然。とはいえ「瞬間瞬間に燃え尽きるリアリティ」や「演者と観客が共有する、決して上書き保存できない同じ時間の流れ」や「すべてのデコボコを吹っ飛ばすほど前のめりな勢い」をライヴの醍醐味だと信じているぼくにとって、そうした“お化粧”は興ざめに等しい。この中野ライヴでのアプガの歌唱は、CDに比べて不揃いなところもある。しかしそれはまったくマイナスではなく、むしろプラスだ。1曲目ではこわばり気味だった各人の声がやがて余裕への突破口を見つけた末に次第に燃え上がり、中野サンプラザごと沸騰して屋根が吹き飛んでしまうかのような大団円に向かってゆくに至る過程……いいかえればアプガ7人の心の移ろいが、その加工臭のない歌声を通じて手に取るようにわかるのだ。これがライヴの臨場感、迫真性なんだ!

 誤解のないように書いておくと、アプガは十分な歌唱力を持ち合わせている。あれほどの高速で踊りながら歌い、ときには客席に乱入し、しかも各メンバーが離れた距離で立つ広いステージでモニターだけを頼りに(イアモニ不使用で)、生声で通すのは超絶技ではないだろうか。しかも《ストレラ!~Straight Up!~》では夢心地のハーモニーまで届けてくれるのだ。ディスク2を見ながら、ぼくは「中野決定」のパートで画面に合わせて拍手をし、ステージでスポットライトを浴びているときとはまた異なる各メンバーの姿に襟を正した。

 夏のアプガは計52本のイベントをこなしたという。8月は31日しかないのだから、まったく奇跡的な数である。「TOKYO IDOL FESTIVAL2014」の、フジテレビ湾岸スタジオ屋上「SKY STAGE」におけるパフォーマンスは心底、爽快だった。もっともあそこには一種の魔力があって、あの高さと見晴らしの良さ、移ろう風や空気のなかで見聞きすると、どんなアイドルのステージも何割か増しで気持ちよく楽しめるところがある。しかもアプガが出たのは、夕焼けがどんどん暗くなって夜に近づこうとしている、夏の醍醐味ともいえる時間帯。地上123メートルの場所で味わうアプガ・サウンドの高揚感には、どんな言葉もかなわない。だが面白いものだ。アプガの音楽は、ホールで聴いても、ライヴハウスで聴いても、野外や室内のイベント会場で聴いても、毎回、感極まってしまうほど素晴らしく、たとえ同じ曲を歌っていたとしても、常に新たな発見や感動を与えてくれる。

 9月にクラブクアトロで行なわれた「対バンROCKS(仮)~東京決戦 3DAYS~」もすさまじかった。これはタイトル通り、アプガがロック・バンドと対バンするというイベントだ。3日間のうち2日はアプガが先攻だったが、自分の出番が終わったからといって楽屋で休憩したりはしない。客席下手(しもて)側にある関係者用観覧スペースで、それこそ目を皿のようにして、立ったまま前のめりになって、真剣そのものの表情でロック・バンドの面々のオーディエンスへの乗せ方、煽り方、楽器奏者の指先などを凝視しているのだ。ひとつでも自分たちに欠けているものを取り入れたい、自分たちのパフォーマンスに反映させたい、という気迫、気合をビンビンに感じたのはぼくだけではないだろう。しかもアプガはノリのいい曲では実に嬉しそうにリズムをとり、曲が終わるごとに盛大な拍手をし、ニコニコしながらステージを楽しむことも忘れていなかった。超一級のライヴ・パフォーマーであるアプガは、同時に最高峰のライヴ・オーディエンスでもあるのだ。いいかえれば「演じ手」「聴き手」両方の喜びを知っている。だからこそあんなに、ファンの心を打ちぬく歌や踊りができるのだろうか。

 今、熱気が脈打つエンタテインメントがあるとすれば、そのひとつは確実にアプガだ。10月から11月にかけて、ライヴやイベントも目白押しなので、「アイドルにあまり関心が持てなくて」という方も、ひとっ風呂浴びにいくような感じ、そうだなあ、「ホットな音楽で暖まろう」という気分で足を運べば、その先には大きな喜びが待っている。在宅派の方は『アップアップガールズ(仮)1st全国ツアー アプガ第二章(仮)進軍~中野サンプラザ 超決戦~』一発で、このグループがとてつもない情報量を持った表現集団であることがわかるはずだ。11月4日リリースのシングル《Beautiful Dreamer/全力!Pump Up!! -ULTRA Mix-/イタダキを目指せ!》に関しては、メンバー自ら「グループ初のベスト10入りを目指す」と宣言している。アプガの曲は常に「全俺チャート1位」なので「いままでベスト10に入ったことがない」というのは正直、意外だった。1964年のビートルズのように、ヒットチャート上位10曲の半数がアプガ曲で埋め尽くされる日が来ることを心から待つ。[次回10/27(月)更新予定]