ArtTheaterGuild、山中さわおプロデュースの新作を引っ提げた自主企画【萌芽納め】ライブレポートが到着
ArtTheaterGuild、山中さわおプロデュースの新作を引っ提げた自主企画【萌芽納め】ライブレポートが到着

 ArtTheaterGuildが、山中さわお(the pillows)プロデュースのミニ・アルバム『HAUGA』をリリースして約4か月。2019年2月9日に【萌芽納め】と題した主催イベントを、ゆかりの3バンドを招いて開催した。
【萌芽納め】その他ライブショット

 当日はあいにくの雪にも関わらず、場内は新鋭バンドの“萌芽”を見届けようと、ほぼ満員の熱気で満ち溢れていた。

 私事で恐縮だがArtTheaterGuildとの出会いは偶然だった。いろいろなアーティストのライブに足を運ぶたびに顔を合わせる木村祐介さん(g/cho)と馴染みとなり、その後彼が加入したバンドとして紹介された伊藤のぞみさん(vo/g)、浅井萌さん(ds)とライブ打ち上げで同じテーブルになり、朝までたくさん話をした。翌日に送ってくれた音源を聴いて惚れ込んでしまい、高円寺のライブハウスに演奏を観に行った。1 st EP「4AM MELLOW DIVERS」は、祐介さんとのぞみさんが敬愛するthe pillowsの山中さわおさんに気に入られ、ラジオ番組でオンエアするためにリミックスされたことが大きな話題となった。2 nd EP「Farafra」をリリースしたとき、その出来が素晴らしくて僕は発表の場もないのにインタビューの立候補をしたら、のぞみさんは吉祥寺の喫茶店で1時間半も熱い想いをきかせてくれた。あてもなく原稿を送ったらYouTubeに「Headlong」MVを挙げているページに掲載してくれた。

 イベント【萌芽納め】のトリとしてArtTheaterGuildが登場したのは21時30分過ぎ。浅井さん、祐介さん、サポート・ベースのハミー(ヒロ・ハミルトンfrom 東京パピーズ)さん、そしてのぞみさんが登場し「今日はありがとう。ArtTheaterGuildです。最後まで楽しみましょう。よろしく」と前置きして「Headlong」からライブはスタート。これまでリリースされた2枚のEPと1枚のミニ・アルバムは、のぞみさんの描く楽曲を実に丹念に練られたアレンジと緻密なバランスで収められた作品という印象だったが、最近ステージを観るたびにATGのパフォーマンスは感情が爆発する熱量も随所に感じられて魅きつけられる。最新作『HAUGA』は“芽吹く”という意味と“邦画”にかけた(バンド名は映画配給会社アート・シアター・ギルドにちなんで命名された)という作品だそうだが、のぞみさんの紡ぐ歌詞は実に独特で、一聴して明確な像が浮かばなくても噛み締めるごとに味わい深い言葉が積み重ねられている。

 そんな楽曲を祐介さんのギターは、シンプルながら曲の輪郭を形作るイントロ、チョーキングの微妙なハーフトーンで主旋律に巧みに絡むリフで、ときに饒舌にときに抑制の効いたタッチで音世界を構築する。浅井さんの刻むビートは余計な手数をかけず極限まで研ぎ澄ませたキックとタムが心地良く、メロディを最大限に活かすことにひと役買っている。華奢な浅井さんだがプレイは実に骨太、裸足で微妙なニュアンスを蹴りこなしている。ハミーさんのぐいぐいと重心を引っ張るベースラインとの相性もバッチリだ。

 3曲を終えたところで、招いた3バンドを「ソングライターが一筋縄では友達になれない感じがよかったですね」と称したのぞみさんが「みんなも好きになってくれたら嬉しいな」と、主催した想いを語る。「みんなともっとお近づきになりたいなと思ってるんですが」と、観客にステージに寄って欲しいとリクエスト。「せっかく前に来てもらったのに悪いんだけど、指向を変えてムーディな曲を」と前置きして「蝶の舌」を披露した。憧れの山中さわおさんにラジオでかけたいと言わしめた「4AM Mellow Diver」は改めて名曲だ。6曲を終えたあとのMCで「曲を書く身として、歌詞を書くときに真剣に今までの自分の思い出とか感じることを丹精込めて作ったんですね。人生賭けてる曲ばっかりなんですけど、ライブで演ってなかった曲があるんです。でも考えを改めて、好きと言ってくれる皆さんにライブで届けたいと。1年ぶりにこの曲を演奏したいと思います」と語って「Farafra」を丁寧に披露した。

 本編8曲を成し遂げステージを去るも、まだ聴き足りないと鳴り止まない拍手に促されてアンコール。「いい曲が出来たから今日は1曲披露したい。聴いて欲しい」と新曲「バースデイ」。新機軸の片鱗が垣間見えた曲に盛大な拍手が沸き上がる。「良いと思ったら拍手して!褒めたら褒めただけ俺は伸びるタイプ」と、ゴキゲンなのぞみさん。主催イベントをやり遂げた手応えを感じているようだ。「本当に最後だね。また会おうぜ」と「Stamen」でこの宴の幕を閉じると、会場いっぱいに笑顔と満足感が溢れた。

 “原石”。希少価値で、磨かれて宝石になることでよく使われる形容詞だ。だがこの日の主催イベントを観て、ArtTheaterGuildは、“原石”とは少し違うと思った。祐介さんが高校2年生のときに出会って、ミニ・アルバム『HAUGA』のプロデュースをしてくれた山中さわおさんを始め、全国流通を実現させたレーベルや、今日出演したバンド仲間など、まわりが手を差し伸べてくれたおかげで輝きを増しているのは間違いない。ただ、なによりも良い楽曲を作り長く愛されるバンドになりたい、輝きたい、と自分自身でもがき苦しみ、悩み、そして少しずつ確実に前に進んでいる推進力とその強い意志は、“原石”というにはあまりにがむしゃらだ。

 出逢えて良かった。素敵な出逢いはそんなに簡単には転がってはいない。大切にしたいと強く思えた。そんなステージだった。

text:浅野保志(ぴあ)
photo : 前田美里

◎公演情報
【萌芽納め】
2019年2月9日(土)
東京・下北沢BASEMENT BAR
<出演>
ArtTheaterGuild / Transit My Youth / aoni / Clematis
=セットリスト=
M1.Headlong
M2.TOYRING
M3.UNDERTALE
M4.蝶の舌
M5.HOMEALONE
M6.4AM Mellow Diver
M7.Farafra
M8.MADDERGOLD
En1.バースデイ(新曲)
En2.Stamen

◎リリース情報
MINI ALBUM『HAUGA』
2018/10/17 RELEASE
BZCS-1167  1,389円(tax out)